子どもの心の診療医養成事業の現状について

日本小児心身医学会理事長 田中 英高

(本稿は、我が国の子どもの心の診療医養成事業の現状について.子どもの心とからだ 2008; 17: 131-135 に掲載済み)

はじめに

近年、心の問題をもつ子どもへの対応の充実が求められているが、当該領域の専門的な診療を行うことができる医師や医療機関は限られていることから、「子どもの心の診療医」の養成・確保が急務である。そこで、厚労省では「子どもの心の診療に携わる専門の医師の養成に関する検討会」を設置し、一般の小児科医や子どもの診療を行う精神科医が子どもの心の診療に関する基礎知識や技能を身につけるための方策の検討を、平成17年3月から開始した。その詳細は、厚労省HP、子どもの心の診療医の養成に関する検討会(平成17年度報告書について)のページで閲覧できる  これを読むと大筋のところは理解できるが、実際の具体的な情報が交錯していてわかりにくいという意見をたびたび耳にする。たとえば、事業活動は具体的にどのようになされているのか、あるいは、最近、各方面から案内される当該領域の数々の研修会がどのような位置づけなっているのか、あるいは、「自分は子どもの心の二次診療担当医リストに登録したが、あれは何か?」などである。本稿では、この事業について概説し、本学会としてこの事業にどのように参画しているのか述べる。

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事業推進の経緯

平成16年12月24日、少子化社会対策会議が「少子化社会対策大綱に基づく重点施策の具体的実施計画について(子ども・子育 て応援プラン)」を決定した。この中には、「子どものこころの健康支援の推進施策として、児童思春期における心の問題に対応できる小児神経科、児童精神科等の医師、保健師等 の養成を図るとともに、精神保健福祉センター、児童相談所等における専門相談の充実を図る」と提言されており、また5年間で「子どものこころの健康に関する研修を受けている小児科、精神科医(子どもの診療に関わる医師)の割合を100%」にすることが目標に掲げられている。

この施策に従って、厚労省雇用均等・児童家庭局が「子どもの心の診療医」の養成に関する検討会(座長 柳澤正義)を発足した。この検討会で、「子どもの心の診療のための教育・研修到達目標」が作成された。同時に、厚生労働科学研究補助金 子ども家庭総合研究事業 子どもの心の診療に携わる専門的人材の育成に関する研究(主任研究者 柳澤正義)が開始され、需要と供給の実態の把握や、今後の診療医養成の手法等について調査研究が進められた。

「子どもの心の診療医の養成に関する検討会」では、子どもの心の診療に従事する医師を、①卒後臨床研修を終了後、小児科や精神科の一般的な研修を終了し、一般的な診療に携わる一般の小児科医・精神科医、②これを経て、さらに子どもの心の診療に関する一定の研修を受け、子どもの心の診療に定期的に携わる小児科医・精神科医、③これらを経て、子どもの心の診療に関する専門的研修を受け、専ら子どもの心の診療に携わる医師、の三種類に分類した(図1)。現場では、これらは各々、レベル1、レベル2、レベル3という名称でよばれている。平成17年からそれぞれのレベルにおいて作業部会が結成された。本学会員、日本小児科学会会員に関係するのはレベル1とレベル2である。発足時の小児科関係の部会構成員を表1に示した。

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事業内容

(1) それぞれのレベル向けの研修テキスト作成

(2) それぞれのレベル向けの研修会開催

(3) その他

前述の施策にしたがって、(1)(2)を達成するため、厚労省は各学会に積極的な協力を求めてきている。日本小児心身医学会に対しても、レベル1,レベル2において協力が求められ、研修委員会がその事業に携わることとなった。平成18、19年度に本学会が関わった上記の(1)〜(3)の事業について、(I)レベル1、(II)レベル2の各々について以下に概説する。

(I)レベル1向け事業(一般的な診療に携わる一般の小児科医・精神科医を対象):このレベルの研修体制の構築は、小児科、精神科のそれぞれにおいて実施されている。小児科領域では、日本小児科学会、日本小児科医会、日本小児心身医学会、日本小児精神神経学会、日本小児神経学会が参加した。
18年度には、(1)一般小児科医に望まれる子どもの心の診療のための一般小児科医向けテキストの作成を完成した。多くの本学会会員にも執筆のご協力を頂いた。20年4月に日本小児科学会会員には配布され、また厚労省のHPに掲載された。(2)一般小児科医向け研修会の開催は、日本小児科医会が中心となって平成19年9月23日に開催した。(3)その他として、一般小児科で対応できない患者の専門医療機関の紹介先リスト(子どもの心の二次診療担当医リスト)を作成した。これには日本小児心身医学会、日本精神神経学会、日本小児神経学会が参画した。本学会では5年以上の会員歴のある会員505名に対して、「子どもの心の二次診療担当医 登録用紙(小児科用2006)」を郵送し(2007年3月1日付け)、登録をお願いしたところ、169箇所の医療機関が二次診療担当として登録した。
(II)レベル2向け事業(子どもの心の診療に定期的に携わる小児科医・精神科医を対象):このレベルの研修体制の構築は、小児科、精神科が共同で実施しており、現在なお進行中である。部会構成学会は、表1 レベル2に示した。正式な名称は、「子どもの心の診療関連6医学会連絡会議」である。次の2つの事業を行っている。

  1. 18年度には、二次診療担当医向けテキストの作成を完成した。多くの本学会会員にも執筆のご協力を頂いた。レベル1テキストと同様に、平成20年4月に厚労省のHPに掲載されたのでダウンロードできる。
  2. 二次診療担当医向け研修会は、2本立てで実施している。一つは、6医学会連絡会が共同で行う「子どもの心の診療医専門研修会」である。受講者には受講修了書が渡される。すでに18年度、19年度に1回ずつ開催された(表2)が、期間は1日のみである。図3に示された3日以上の研修コースは6医学会で実施するには負担が大きすぎる。もう一つの研修会は、それぞれの学会年次大会や研修会の中の教育講演などを「子どもの心の診療関連医学会連絡会議 共同開催研修会」と指定し、それを受講する方法である。他の学会会員は参加費を支払って受講することができる。受講修了書はない(図3の学会連合型単位獲得研修コースに相当するシステム)。この2本立ての研修は、各学会会員各自のスキルアップを目標に生涯学習の一環として受講するというのがコンセプトであり、受講したからといって診療報酬に反映されるインセンティブは、現状では見送られている。厚労省はこれらの事業が専門医制度にリンクしないように誘導していることとも関係している。20年度以後も、この2本立ては実施されることが当該連絡会で承認されているが、具体的計画は今後、検討される。

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将来の事業のゆくえ

現時点では、20年度以後のレベル1研修の計画はない。レベル2研修については、6医学会連絡会で継続が確認されたが、具体的な日程やプログラムは未定である(平成20年2月現在)。これらの事業は厚労省が誘導しているものの予算配分がないことから、当然、具体的計画の提示はない。結局、各学会に援助なしで丸投げされた形になっている。しかし、ほとんどの各学会は任意団体であり、会員のボランティア精神に則って活動している団体である。任意団体である学会が緊急性を要する「心の診療医養成」という国策をかなりの部分を負担してきた、というのが、平成17〜19年までの実情である。学会員の多くが強い関心を抱いている「専門医制度への移行」の可能性も、現状では薄い。

今、「子どもの心の診療拠点病院計画」が進んでいるが、心の診療医の全体数が増えないと実現不可能という現実もある。しかしながら、心の診療医養成事業は日本の子ども達が希望ある輝かしい未来を築き上げるためにも必要不可欠である。また一方で、当学会の基本路線の一つである、小児科医に対する子どもの心の診療の啓発と研修活動、とも一致することから、今後とも当学会がこれらの事業に参画することは避けられない。会員諸氏のご支援、ご指導をこの場を借りてお願いしたい。

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謝辞

本事業に関する研修テキストの執筆、研修会講師、研修会準備を務めていただいた本学会員諸氏に心から感謝申し上げます。

表1.子どもの心の診療医養成のための研修会等作業部会構成員

レベル1(卒後臨床研修を終了後、小児科や精神科の一般的な研修を終了し、一般的な診療に携わる一般の小児科医)の部会構成員。この部会は、子どもの心の診療医についての協議会、と呼ばれていた。◎:部会長

日本小児科学会(◎別所・沖・山崎)
日本小児心身医学会(冨田・田中)
日本小児精神神経学会(星加)
日本小児神経学会(桃井・神山)
日本小児科医会(保科・内海)

レベル2(子どもの心の診療に定期的に携わる小児科医・精神科医)の部会構成員。この部会は、子どもの心の診療関連6医学会連絡会議、と呼ばれていた。

部会長:柳澤 事務局:奥山
日本小児精神神経学会  (塩川)
日本小児神経学会    (杉田)
日本小児心身医学会   (田中)
日本乳幼児医学心理学会 (野邑)
日本思春期青年期精神医学会 (齊藤)
日本児童青年精神医学会 (松本)

表2. 子どもの心の診療関連医学会連絡会が主催する「子どもの心の診療医専門研修会」

(1)第1回子どもの心の診療医専門研修会

開催日時: 平成19年3月17日(土曜日) 9時15分~16時30分
開催場所: 国立成育医療センター・研究所2F セミナールーム
参加対象者: 下記6医学会のいずれかの会員である医師  先着100名
会費: 6000円
プログラム:
9:15 開会の挨拶 厚生労働省
9:30 「発達障害診療の実際:診断面接と鑑別診断」
塩川宏郷(小児精神神経学会)
10:30 「学習障害の診断と検査法」 
杉田克生 (小児神経学会)
11:30 「広汎性発達障害の早期発見と療育」 
野邑健二 (乳幼児医学心理学会)
13:30 「発達障害児の学校不適応」
冨田和巳・田中英高(小児心身医学会)
14:30 「発達障害のクリティカル・ポイントとしての思春期」
齊藤万比古(思春期青年期精神医学会)
15:30 「成人期のADHD」
松本英夫(児童青年精神医学会)
備考: 最後に受講修了書をお渡しします。
申込方法: 以下の項目を記載の上、XXXX@XXXXにメールで申し込んで下さい。
記載事項: 名前、所属、診療科、住所、メールアドレス、電話番号、ファックス番号

(2)第2回子どもの心の診療医専門研修会

開催日時: 平成20年1月13日(日) 10時00分~15時30分
開催場所: 慈恵医大
参加対象者: 下記6医学会いずれかの会員である医師 先着100名
参加費: 6000円(当日徴収)
プログラム:
10:00 「摂食障害総論」
宮本信也(日本小児心身医学会)
10:45 「アノレキシアを中心に」
生田憲正(日本思春期青年期精神医学会)
11:30 「その他ブリミアを含めた精神症状を中心に」
宇佐美政英(日本児童青年精神医学会)
13:00 「乳幼児期の摂食の問題について」
猪子香代(日本乳幼児医学心理学会)
13:45 「摂食障害の鑑別」
間部裕代(日本小児神経学会)
14:30 「児童の摂食障害の非定型の分類について」
北山真次(日本小児精神神経学会)

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図説明(リンクをクリックすると画像が表示されます)

図1 子どもの心の診療体制のイメージ図。図中の※1,※2,※3は、それぞれレベル1,レベル2、レベル3に相当する(本文参照)
図2 子どもの心の診療医養成研修システム(厚労省のHP 17年度報告書より)
図3 子どもの心の診療医養成研修プログラムモデル(厚労省のHP 17年度報告書より)

参考文献

i http://www.mhlw.go.jp/houdou/2006/03/h0331-13.html
ii http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/kokoro-shinryoui.html
iii http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/kokoro-shinryoui.html

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