(2)過敏性腸症候群

福間病院心療内科
島田 章

  1. 過敏性腸症候群とは?
    過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome; IBS)は、腹痛や腹部不快感が、排便の回数や便の性状の異常とともに起こる慢性の腸の機能的疾患です。「機能的」というのは、腸管に明らかな炎症や腫瘍などの病気はなく、腸管の働きに問題があるという意味です。子どもの腹痛を起こす病気としてはもっとも頻度の高いもののひとつであり、ストレスとの関係が深い病気としてもよく知られています。
  2. どれくらいの頻度か?
    西欧諸国では中学生の6%、高校生の14%に見られると言われ、大変多いものです。また、一般の小児科では小児(4-18歳)の0.2%、3次医療(救急医療などの高度医療機関)では22%~45%にこの病気の患者が見られたという報告があります。
  3. 原因は?
    過敏性腸症候群の原因はまだ完全に明らかにはなっていませんが、痛みなどの刺激に対して感じやすい“内臓知覚過敏”が指摘されています。それには腸管の感染や炎症、腸管外傷、あるいはアレルギーを含む多くの病的過程が関与すること、また腸管運動の障害(亢進や減弱)をともなうことがあるなどが最近の研究によって明らかにされつつあります。また遺伝的負因、人生早期のストレス体験、適応の障害などの因子も絡み合っています。
  4. 基本となる症状は? 
    基本となる症状は、一定の期間、排便と関係のある腹痛や腹部不快感が持続する、または繰り返されることです。腹痛は排便によって和らぐことが多いです。
  5. 合併症や併存症は?
    子どもに腹痛を起こす病気では、機能性ディスペプシア(排便と関係のない上腹部痛)、腹部片頭痛(片頭痛や臍の周りの強い腹痛の発作)などは過敏性腸症候群と同時におこることがあります。また、過敏性腸症候群はほかの心身症や抑うつ・不安などの精神症状、軽度発達障害(ADHDや学習障害、アスペルガー症候群など)、さらに不登校や引きこもりなどの適応障害とよく併存することが知られています。
  6. どのように診断するのか?
    国際的に用いられている小児思春期の過敏性腸症候群の診断基準は次のようです。
    以下のすべての項目があること。
    1. 腹部不快感(痛みとはいえない不快な気分)または腹痛が下記の2項目以上を、少なくとも期間の25%にともなうこと。
      1. 排便によって軽減する。
      2. 発症時に排便頻度の変化がある。
      3. 発症時に便形状(外観)の変化がある。
    2. 症状の原因になるような炎症性、形態的、代謝性、腫瘍性病変がない。
      ※診断の少なくとも2ヶ月以上前から症状があり、少なくとも週1回以上、基準を満たしていること。
    つまり実際的には、腹痛が2か月以上続き、それが以下のような排便の障害と関係があるときはまず過敏性腸症候群と考えて間違いはありません。たとえば1日3、4回以上の下痢や週2回以下の排便しかない便秘がある、あるいはコロコロした硬い便から軟便・水様便まで便の性状が変化する、あるいは排便時に息んだり、残便感があるなどです。
  7. 一般にどのような経過をとるのか?
    まだ十分な証明は得られていませんが、多くの症例ではある程度時間が経てば、症状は治りやすいと考えられます。しかし、環境調整が難しい場合や行動・精神の障害(たとえば社会不安障害や軽度発達障害)をともなう場合などは症状が長引くことがあります。
  8. 治療は?
    適切な診断、痛みの原因の解明、病気への正しい理解だけでもかなりよくなります。子どもの場合、腹痛は登校前(午前中)に起こりやすいです。そこでそこに焦点をあわせ、食生活の見直し、排便習慣の根気強い改善、十分な睡眠などが大変重要です。腹痛が強い場合、下痢や便秘などのタイプにあわせてくすりを短期間服用することも有用です。抑うつや不安・緊張が明らかに認められるときは、少量の抗不安薬、抗うつ薬などを用いのも意味があります。環境要因、心理的要因が強い場合、個人または親の心理療法(カウンセリングや遊戯療法など)が必要となります。
  9. 専門医を受診した方がよい場合は?
    夜間の腹痛、微熱、下血、嘔吐、体重減少などいつもと様子が異なるときは、消化器科の専門病院を受診して、器質的病気がないかを確かめて下さい。またなかなか症状が良くならない場合や軽度発達障害の合併や精神病性症状の前兆などがあれば小児心身医療あるいは児童精神医学の専門医を受診してください。

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  1. (1)起立性調節障害:田中英高
  2. (2)過敏性腸症候群:島田章
  3. (3)気管支喘息:赤坂徹
  4. (4)過換気症候群:小柳憲司
  5. (5)慢性頭痛(片頭痛、緊張性頭痛など):安島英裕
  6. (6)消化性潰瘍:竹中義人
  7. (7)心因性嘔吐:岡田あゆみ
  8. (8)非器質性視力障害:石崎優子
  9. (9)転換障害:稲垣由子
  10. (10)心気症:氏家武
  11. (11)身体醜形障害:村山隆志
  12. (12)疼痛障害:汐田まどか
  13. (13)身体化障害:二宮恒夫
  14. (14)その他の身体疾患による精神症状:藤本保
  15. (15)神経性食欲不振症(若年期発症):井口敏之
  16. (16)不登校の早期対応:村上佳津美
  17. (17)いじめ問題への対応:河野政樹

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