(15)神経性食欲不振症(若年期発症)

    1. あらまし: 10代前半の発症は体と心へのダメージが大きく、栄養障害により成長障害や骨粗しょう症、不妊、不育などの問題が見られ、死亡率も高くなる(1-10%)重い心身症である。近年発生数の増加と初潮前に発症する低年齢化、さらに拒食症から過食症へ移行する例が増加してきていると言われている。 
    2. 疫学(若年期にしぼったデータはない)
      有病率:10代後半から20代の女性において0.2-0.5%前後
      性差:5-20:1と女性に多い。
      好発年齢:10-15歳の前思春期例が増加しており、近年低年齢化してきている。
      遺伝性・家族性:明確なデータはない。 
    3. 成因:遺伝的素因、体質や性格、心理的・社会的・文化的要因の絡み合いが考えられている。ダイエットが誘因になっているものが多いが、心理的ストレスで食べられなくなったり、胃腸炎から食べられなくなって体重が減少し発症するものもいる。 
    4. 診断基準:Laskらの診断基準;
      1. 頑固な体重減少(例:食物の回避、自己誘発性嘔吐、過度の運動、下剤の乱用)
      2. 体重あるいは体型への異常な認知
      3. 体重あるいは体型への病的な没頭 
    5. 鑑別診断:脳腫瘍や汎下垂体機能低下症など鑑別は難しくない。うつ病や統合失調症の部分症状との鑑別がはっきりしないことがある。 
    6. よくみられる症状・合併症・併存症:
      1. 身体面:やせ、低体温、皮膚の乾燥、手掌・足底の黄色化(カロチン血症)、背部・四肢の産毛密生、脱毛、便秘、浮腫、無月経、徐脈、低血圧
      2. 食行動:拒食、少食、隠れ食い、盗み食い、家族の食事への異常な関心・食べることの強制、食べ物への固執
      3. 行動精神面:ダイエットハイ(やせ始めに何でもできる有能感)、活動性の亢進(やせているのに異常に運動する)、やせ願望、肥満恐怖、やせていることを認めない身体像認知の障害、病識の欠如、抑うつ感情、見捨てられ不安、強迫傾向、焦燥感、無力感、無気力、睡眠障害。
      4. 合併症:不登校、家庭内暴力、自殺企図、盗癖、性的逸脱行為、甲状腺機能低下症、上腸間膜動脈症候群、refeeding症候群(リンの低値)。将来的に成長障害(低身長で終わってしまう)、骨粗しょう症、不妊症。
      5. 併存症:広汎性発達障害
      6. 参考になる検査データ:アルカリフォスファターゼの低値、成長ホルモン高値、甲状腺ホルモン(フリーT3低値や甲状腺機能低下)、インスリン様成長因子-I (IGF-I)低値、総コレステロール高値、BUN(尿素窒素)上昇、リン低値、MRIやCTによる脳萎縮。 
    7. 経過:ダイエットを契機にあるいは何らかの理由(心理的ストレスで食べられなくなった、胃腸炎などで食べられなかった)で体重減少し、そこからさらに体重が減り、食べるのがこわくなり、やせによる有能感(ダイエットハイ)を味わい、標準体重の70%くらいまで減ると身体的につらくなるが、もう後戻りできなくなり、必要最小限のカロリーも摂取できなくなってしまう。標準体重の75%をきると入院適応、60%をきると強制栄養(経管栄養など)の適応、55%をきると死亡確率が高くなる。(標準体重の計算は下につけておきました。) 
    8. 治療・介入:栄養状態が悪い時は心理的対応に反応しにくいので、体の回復のための対応を行う。いろいろなやり方はあるが、一つの方法を提示する。
      初期対応では標準体重の何%かの計算、身長・体重の成長曲線の作成、脈拍数(安静覚醒時60/分未満)の測定。成長曲線を見ながら現状の把握を行い、脈拍が60未満であれば体が冬眠状態になってきていることを正しく告げる。本人や家族が「病気であること」の理解をすすめ、栄養摂取と休養が必要なことを教育する。本人の栄養摂取への抵抗が強ければ、栄養のめどとして体重の増えない1日1000カロリーの食事を思い切って3食きっちり食べることを目標にするとよい。患児と相談してモサプリド・六君子湯・大建中湯などを使用して消化管の運動を助けるのもよい。
      こうした対応の外来治療で体重が維持できず、減少していく場合は入院治療を選択したほうがよい。入院治療では1日1000カロリー食を完食することから始めて、1週間で完食できなければ経管栄養として枠組みを作っておくと、食べられる子は食べられるようになり、食べられない子は経管栄養をすれば食べられるようになることが多い。食べられるようになると精神的に不安定になることが多く崩れやすくなるので、リスペリドン1mgやSSRI(抗うつ薬)などを使用すると本人も安定して自己のバランスをとりやすくなることが多い。本人とのコミュニケーションは日記をつけてもらうととりやすい。徐々にカロリーアップをしていき、外出、外泊、退院の目標を体重で設定し、それをクリアしていくという方法をとる。そうすると体重を増やすことが目標になるが、なかなか思うように体重が増えないことが身をもってわかっていくのでその後の治療に生かしやすい。
      点液が必要な場合は1日輸液量を500-1000mlくらいで少な目から開始し、状況によりリンの補充が30-90mg/kg/day必要といわれており、抹消点滴で補う場合はコンクライトPなどを点内に入れて行うとよい。
      なお、退院レベルになっても、精神的に脳機能的にまだ社会生活(学校など)は難しいので、自宅で気ままに生活する時間(自己主張がよくできるようになる)を大切にして、ゆっくり復帰させるのがコツである。最終的に女の子の場合は規則的な月経の発来を確認することが大切である。

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標準体重の計算
標準体重=a×身長-b (kg)

女子 男子
5歳 0.379 22.923 5歳 0.381 23.099
6 0.433 29.331 6 0.44 30.134
7 0.484 35.64 7 0.489 36.294
8 0.538 42.371 8 0.576 47.007
9 0.62 53.008 9 0.634 54.615
10 0.7 64.186 10 0.708 64.866
11 0.784 76.406 11 0.763 72.848
12 0.806 78.855 12 0.784 76.118
13 0.682 58.704 13 0.816 81.589
14 0.614 46.482 14 0.822 82.034
15 0.562 36.913 15 0.774 72.009
16 0.588 40.622 16 0.708 60.404
17 0.583 39.935 17 0.675 54.084

山崎公恵ら:日児誌98:96-102,1994より引用一部改変

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  1. (1)起立性調節障害:田中英高
  2. (2)過敏性腸症候群:島田章
  3. (3)気管支喘息:赤坂徹
  4. (4)過換気症候群:小柳憲司
  5. (5)慢性頭痛(片頭痛、緊張性頭痛など):安島英裕
  6. (6)消化性潰瘍:竹中義人
  7. (7)心因性嘔吐:岡田あゆみ
  8. (8)非器質性視力障害:石崎優子
  9. (9)転換障害:稲垣由子
  10. (10)心気症:氏家武
  11. (11)身体醜形障害:村山隆志
  12. (12)疼痛障害:汐田まどか
  13. (13)身体化障害:二宮恒夫
  14. (14)その他の身体疾患による精神症状:藤本保
  15. (15)神経性食欲不振症(若年期発症):井口敏之
  16. (16)不登校の早期対応:村上佳津美
  17. (17)いじめ問題への対応:河野政樹

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