新年のご挨拶(2009年掲載)

「心の時代」を迎えて

新年明けましておめでとうございます。本年も日本小児心身医学会をどうぞよろしくお願いします。この場を借りまして、新年のご挨拶をさせて頂きます。

1.これまでの主な活動や事業について

これまで本学会は研究だけでなく、子どもの心の診療を推進するために様々な活動を行って参りました。その概要は以下の通りです。
(1)心の診療医を増やすため、年次学術集会最終日に一般医向け研修会を継続的に開催してきました。

(2)研修委員会では、専門医養成のための「イブニングセミナ」:過去9年間開催し延べ900名以上の参加がありました。これらのセミナは厚生科学研究とも共同開催をしてきました。

(3)研究委員会では学会主催多施設共同研究を推進しています。心身症診療ガイドライン作成事業を2002年に着手し、4つの多施設グループが4年以上をかけて、全人医療の視点から各種心身症診療ガイドラインを作成し、その啓蒙活動を行っています(小児起立性調節障害診断・治療ガイドライン、摂食障害の手引き、不登校ガイドライン、EBMグループ)。本年度からは、「繰り返す子どもの痛みガイドライン」「災害時のメンタルヘルス対策」にも着手しております。

(4)編集委員会では機関誌(年2回)を発行し多くの研究成果を報告しています。また上記ガイドラインを掲載しその啓蒙に努めています。

(5)地方会委員会では、より多くの専門医を全国各地に養成し小児心身医療の地域連携を活発化するために、全国に5箇所の広域地方会を新設し、研究発表ならびに専門医養成研修会を推進しております。

(6)保険委員会では、心の診療行為を普及し定着させるために診療報酬改定に尽力しています。

(7)薬事委員会は薬物の適正使用を推進し、オーファンドラッグ、オフラベルの問題を解決し、心の診療の円滑化に大きく寄与しています。

(8)子どもの心の診療に携わる他の学会と緊密な連携をとるため、「子どもの心の診療関連医学会連絡会(通称6医学会)」に積極的に参加しております。

2.日本小児心身医学会の目指すところと、その使命

さて、当学会の目指すところは何か、当学会の使命は何か、について私の考えるところを述べたいと思います。

現代という時代は科学文明が発達し物質的に豊かになり、先端技術が導入されて世界は大きく変わろうとしています。しかしそのような物質的進化の中にあればこそ、人々はほんとうの心の豊かさ、心の幸福を求めていると感じます。それは医療においても例外ではありません。近代医療は身体を治療することから始まりました。それを「第一世代医療」と名付けるなら、心身医療は「第二世代医療」と言えるでしょう。心と身体の関係を明らかにしつつ、心身両面から様々な治療法を用いて身体機能の回復や行動変容の改善を図ることが目標でした。これからもより洗練された効果的な心身医療の開発を目指すことが必要です。これらの医療モデルは、病気になったというマイナスな事実に対して、病気を治してゼロのレベルに引き戻すことを目的にしています。先端医学の発達はこのマイナスからの脱却に大きな役割を果たしてきました。

しかし、これからの新時代にはマイナスからゼロに引き戻すだけの医療では少し物足りないように感じます。人々は、本当の幸福を手にすることができるような医療を求めはじめるでしょう。そのニーズに応えるための「第三世代医療」の提供が必要となると思います。病気という人生最大の危機に出会った時に、単に病気から回復するだけでなく、それを大きくプラスに転じて素晴らしい人生を築き上げるお手伝いをするのが第三世代医療ではないかと考えています。

心身症は、別の見方をすればありがたい事象かもしれません。身体の不調は、心の不調和の現れであり、心身症はその心の不調和に気づくチャンスです。人には様々な煩悩や葛藤があります。それが心の不調和を起こし身体に変調を起こしてきます。であるならば、正しい心の探究を行い智慧によって煩悩を断ち切り心の調律をする必要があります。自らにして心の苦悩を見事に解決したとき、人生の一つの問題を乗り越えたという満足感があり、生かされている喜びと、新たな人生を生き切る使命を実感するでしょう。

子どもの心身症は貴重な意味を持つ人生ドラマの一コマです。親にとっては重要な警告であり、かつチャンスです。人生は一冊の問題集、という考え方がありますが、苦しみの奥に家族にとってのダイヤモンドが眠っていることがあります。人生すべてに学びあり、と気づくことができ、さらに確信することができたならば、その幸福感は得難いものになるでしょう。「病気が治っただけでなく、家族はもっと大きな幸福感を掴むことができました」と実感していただけるように、そのためのお手伝いを、爽やかな風の如くにやり続けること、それが第三世代医療であり、私達のミッションなのだろうと思います。

まだ多くの医療者は、その意識がまだ身体治療中心の「第一世代」で止まっているように見受けられます。我々自身の意識改革と、医療のパラダイムシフトが必要です。これから様々な角度から、新しい戦略と戦術によって目的を達成したいと考えます。本学会員の皆様とともに、智慧を結集し、努力・精進を続けて社会に貢献したいと思います。また関連領域の皆様におかれましては、是非、ご入会下されば幸甚でございます。今度とも皆様のご支援とご協力をお願い申し上げます。

日本小児心身医学会理事長
田中 英高

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