理事長挨拶

残暑お見舞い申し上げます。

 蒸し暑い日が続いておりますが、会員の皆様におかれましては、益々ご健勝のこととお慶び申し上げます。
第28回日本小児心身医学会大会(関 秀俊大会長)が近づいてきました。今回は、一般演題数が83題という過去最大級の発表者に恵まれました。皆様のご協力にお礼申し上げます。また、開催準備に鋭意尽力されている関大会長に心から感謝申し上げます。

【こどもの心の診療医養成に関する近況】

さて、これまでも申し上げてきたように、本学会は「子どもの心の診療医養成」を重要課題と位置づけてきました。多くの先輩諸氏は本学会設立当時の昔からその重要性を深く認識し、学会に研修委員会を設置して地道な活動を長年続けてこられました。たとえば、毎年の学術集会において地域の一般小児科医向け研修会を継続しています。また、専門医養成の一環としてイブニングセミナーも10年前から継続開催しています。現在では、全国7地方会が設立されて地元密着型で研究発表や研修会が開催されています。
(過去の詳細資料は、http://www.jisinsin.jp/demand.htm)。
国も当該領域の重要性に気づき、平成10年から厚労科研による子どもの心の診療への対策が始まり、奥野班、小林班、柳澤班、奥山班と継続されています。また関連領域の学会が協力体制を構築しました。すなわち、「子どもの心の診療関連医学会連絡会議(通称、6医学会)」において、各学会からの役員を講師とした研修会を開催しています。本学会も積極的に協力しています。
ビジネスなどの世界では、ある目標を実現するには「戦略」と「戦術」を立てることが必要だと言われています。「戦略」は数年単位の長期的視点からの全体的計画です。一方、「戦術」は戦略を成功させるための具体的で効果的な方策です。たとえば、「待ち時間のない子どもの心の診療を実現する」「子どもの心の専門医が理想とする診療施設の充実」という現時点では夢のような目標であっても、これを実現させるために、まず戦略を考える必要があります。いま、当該領域に関して、わが国では幾つかの戦略的事業が複合的に同時進行しています。その一端について、今年、第113回日本小児科学会最終日、本学会と日本小児精神神経学会で合同開催した分野別シンポジウム「子どもの心の診療医人材育成に関する新しい取り組み:とくに卒前・卒後『医師のたまご世代』への教育促進に向けて」において報告しました。このシンポジウムは千田 勝一会頭(岩手医科大学教授)のご理解とご厚意により実現しました。生憎、同じ領域のポスターセッション発表とバッティングし聴衆が少なかったので、その概略について報告致します。なおこの詳細は、近々に日本小児科学会雑誌から論文の形で報告されると予定です。

【子どもの心の診療体制充実に向けてのお願い】

当該領域に関してはまだまだ解決すべき問題は山積みです。お一人お一人の心の中には、診療上の様々な難問があることでしょう。初診待ち患者の多さ、患者の家族関係の修復の難しさ、スタッフが足りず一人で遅くまでの診療、相談する仲間も少ないなど、問題解決への道は長く続いているように見えます。しかし、最近の約10年間で子どもの心の診療をする者にとっては、かなり追風となったと感じます。その昔、小児精神神経研究会の創設期に尽力された先生方のお話しでは、周囲の小児科医達は当該領域に対する理解は全くなかったようで、大学病院などでは隠れるように心の診療をやっていたそうです。私自身、約二十数年前にOD、不定愁訴、不登校などの心身症の診療と研究を開始した時、「そんなしょうもないもん、するな」と公然と誹謗されました。強い逆風が吹いていた時代もありました。しかし、この領域にかかわる医師達は、これからの時代には子どもの心の診療は絶対に必要な領域である、と信念を持ってやり続けてきました。誰しもがこの領域の重要性を認めるようになる時代が来るなど、想像もできませんでした。子ども達の心の問題が増え続けているという時代背景があったとは言え、ここまで来られたのも多くの先輩諸氏の尽力の賜物と考えています。
本学会は先に述べた通り、すでに各方面で取り組みを開始しています。しかし、立てるべき戦略の範囲は、コメディカル、学校医、教育・福祉行政との連携を含めもっともっと多くあります。戦略を遂行するためには、新しい効果的な戦術を創造しやり抜く意志が必要です。学会が声を上げるだけでなく、学校医を管轄する医師会、教育行政、そして政府・政治家へ働きかけ、仲間になって頂き、協力してもらえる戦術を考えねばなりません。解決すべき諸問題は、その延長線上で考える必要があると思われます。
そのためには会員皆様の智慧が必要です。皆様の情熱と汗が必要です。熱い思い、ひたむきな情熱を持った素晴らしい人達が、本学会に1人でも多く集って下さることが必要なのです。影響力のある学会になれば戦略は実現していくでしょう。一昨年には本学会員が850名程度でしたが、「学会員数 1000名突破」を目指しましょう、と理事面々が尽力されています。その後、1年半で950名にまでになりました。1000名を越える日も近いと思います。これも会員の皆様のお力の賜物です。これからも周囲のお仲間に、「日本小児心身医学会に入会しましょう!」とお声をかけて下さい、かけ続けて下さい。
また専門性の充実も重要課題と考えております。その一つに認定医制度があります。本学会は今年9月12日に第1回試験を実施する運びとなりました。今年度は受験者を評議員に限定しましたが、来年度からは一般会員に順次、受験して頂きたいと考えております。
以上のように、多くの医師に本学会に集って頂き、そして専門性を高めて頂くこと、それが「子どもの心の診療体制充実」の実現につながっていくものと確信しています。子ども達の心が豊かに育まれる「ユートピア社会実現」という未来ビジョンに向けて、皆様とともに努力していきたいと考えております。今後ともどうぞご支援をお願いいたします。

平成22年8月2日
日本小児心身医学会
理事長 田中英高


第113回日本小児科学会学術集会 2010年4月25日

【分野別シンポジウム 10 】

子どもの心の診療医人材育成に関する新しい取り組み:とくに卒前・卒後「医師のたまご世代」への教育促進に向けて
4月25日(日) 13:00~15:00 第3会場
座長 星加 明徳 東京医科大学小児科
田中 英高 大阪医科大学小児科

 

SS10-1 小児心身・精神領域における卒前教育の実態調査報告

小柳 憲司(日本小児心身医学会研究委員会委員長、長崎県立こども医療福祉センター小児心療科)
【概略】この領域の卒後研修を希望する医師は現実には数が少ない。これを改善するには医学部卒前教育において子どもの心の関連領域の授業を必修化することが望まれる。最近、精神科領域でも調査がなされたが、本学会は、21年7月に全国の医学部小児科学教室にアンケート調査を行いました。その結果、講義は86%の大学で、平均講義時間は2.5時間、なされていた。一方、すべての学生への実習実施大学は20%に過ぎなかった。この結果の詳細は、9月に開催予定の第28回日本小児心身医学会大会研究委員会報告会において発表予定である。

SS10-2 国立成育医療センターこころの診療部における教育システム

奥山 眞紀子(国立成育医療センターこころの診療部)
【概略】
国立成育医療センターこころの診療部では専門研修システムがあり、専門的なトレーニングの内容が紹介された。小児科、精神科、同科の5名のスタッフで6名のレジデント教育を実施中。中枢神経発達から身体側面、精神病理に至るまで子どものこころの研修に専念できるようなシステムにしている。専門的医師となるためには2年以上の研修期間が必要である。平成20年度からの「子どもの心の診療拠点病院事業」のセンターとしても活動中である。(http://kokoro.ncchd.go.jp/

SS10-3 2009年までにラインアップしたガイドラインの使い方:AD/HD、起立性調節障害、摂食障害、不登校、繰り返す痛み(頭痛・腹痛)

宮島 祐(東京医科大学小児科)
【概略】
こころの診療医の養成においては、標準的内容の研修を実現する必要がある。その意味から、診療ガイドラインが重要な役割を果たす。日本小児心身医学会から、ガイドライン集が2009年に出版され、起立性調節障害、不登校診療、神経性無食欲症、くり返す子どもの痛み(頭痛・腹痛)のガイドラインが提示された。また、日本小児心身医学会、日本小児精神神経学会、日本神経学会が共同で、「小児科医のための注意欠陥多動性障害の診断・治療ガイドライン(編集宮島祐ら)が出版されている。またADHD治療薬が小児に適応となったことから、ガイドラインの改訂が必要である。

SS10-4 子どもの心の卒前・卒後教育促進に向けての提言

田中 英高(日本小児心身医学会理事長、大阪医科大学小児科)
【概略】
子どもの心の診療医養成の戦略として、医学部卒前教育の必修化、研修医とレジデントへの研修機会の増加と充実、専門領域における認定医制度の充実、大学院における当該領域の研究促進と学位取得があげられる。認定医制度については、本学会が今年9月12日に第1回試験が実施される運びとなった。今年度は受験者を評議員に限定したが、来年度からは一般会員に受験して頂きたいと考えている。これが専門的診療の普及と充実に結実するように、学会として鋭意努力を続けたい。多くの会員のご支援をお願い致します。

 

現在の「ご挨拶」へ戻る

このページのトップへ