第17回 日本小児心身医学会 中国四国地方会

以下は抄録です。会は終了しております。
大会会長 小池茂之(小池医院 院長)
会期 平成21年5月24日(日)
会場 浜田市総合福祉センター(島根県浜田市)

【一般口演】

1. 短期に緘默症状が軽減した選択性緘默症の7歳女児例

医療法人 石谷小児科医院
○山本知佳 (やまもと ちか) 石谷暢男 藤原小百合

<はじめに>
緘默症の中には全く・どこでも・誰とも話をしない全緘默症と、特定の生活場面で話さなくなる選択性緘默症がある。このような子どもと接するときには不安緊張をやわらげ、対人コミュニケーション能力の改善をはかる必要があると考える。
<症例>
場面緘默を主訴に来院した小学1年、女子である。治療は、月に1回60分の医師によるカウンセリングに加え、2週間に1回60分の心理士による遊戯療法を並行して行った。
<考察>
遊戯療法によって子どもが遊びの中で自分の世界を展開し、だんだんと緊張や不安をやわらげることにより、少しずつ他者との関わりをもつことができるようになり、緘默症状が軽減し、表情も生き生きとし、笑顔も多くなり、学校で楽しく過ごすことができるようになったと考えられた。
<結語>
緘默の子どもと関わっていく中で、緘默がどのような意味をもつかを考えながら、子どもが、自分から好きな遊びを見つけるまでゆっくりと待つことが、防衛を強化しない治療空間が必要であると考えられた。

2. 当院で経験した選択性緘默32事例の検討

かねはら小児科
○金原洋治 冨賀見紀子 鮎川淳子 坂本佳代子

当院で経験した選択性緘默32症例を調査・検討した。初診の年齢は小学生が多かったが、発症年齢は始めて集団の場に入る幼児期発症例が多かった。精神遅滞例は少なかったが、IQ100以下の事例が多かった。社会不安障害や高機能広汎性発達障害を併存する例が多く、不登校、摂食障害、遺尿・遺糞症、抜網など緘默以外の主訴で受診するものが多かった。近年、選択性緘默は、発生頻度が0.7~1%程度あること、予後は必ずしも楽観できないこと、社会不安障害や発達障害との関係が深く早期介入の必要性が強調されるようになってきている。我々小児科医は、選択性緘默について理解を深め、適切な診断を行うとともに併存する障害を把握し、幼稚園や保育所、学校関係者などへの情報提供やこれらの機関と連携した具体的な指導や支援をおこなうことが大切である。

3. 自閉性障害からアスペルガー障害に改善した2例の検討

○脇口明子1) 2)、島崎真弓1) 2)、新井淳一1) 2)、脇口 宏2)
1) 細木病院小児科
2) 高知大学医学部小児思春期医学

4歳と5歳で自閉性障害と診断し、治療にわり言語発達が正常化したので、アスペルガー障害と診断を変えた2例を検討した。当院で言語療法を行い、医師は、病院-家庭-園のチームアプローチシステムを構築し、視覚的構造化、ソーシャルストーリー、ソーシャルスキルトレーニングなどを保護者や園に説明した。WISC-などで言語性IQは58→103、66→101、動作性IQは100→101、97→111、全IQは74→102、80→107と著しく改善し、主訴の「パニック」と「登園できない」もなくなった。現在2例ともに小学生だが、入学前に園-小連携会議を行い経過良好である。著効を得た要因は、2例ともに高機能自閉症であったことに加え、保護者が納得するまで医師に質問し、子どもの観察をよくして、それに適した手だてを積極的に行ったことによると考えられた。医師による初診時の適切な説明で予後が改善されると示唆された。

4. 注意欠陥多動性障害(ADHD)の症例から-診断・治療と心理社会的支援-

松山赤十字病院成育医療センター小児科
○井上和子、青野育美、平林茂代、小谷信行

A児の両親は、多動、衝動性の強いA児(保育園年長)への対応に困り、当小児科を受診。A児はADHDと診断され、治療を開始した。カウンセリングにおいては、A児に対して遊びを通した関わりの中でソーシャルスキルトレーニングを行い、A児の自己肯定感の向上や状況に応じた適切な行動の発達をめざした。さらに、就学に対して不安を感じている両親への心理支援、叱る機会が多く対立することの多い親子関係への調整を行なっていった。また、集団との環境調整のため、保育園、学校、療育機関等との連携(成育医療カンファレンス)を実施、A児の行動特徴への理解を求めた。1年4ヵ月たった現在、A児は学校生活を楽しんでおり、親子関係においても対立することが減り大きな変化がみられている。A児の自己肯定感の向上と状況に応じた適切な行動の発達がみられたので、その取り組みについて報告する。

5. 高機能広汎性発達障害をもつ子どもの学童中期のそだちをどう支えるか

かねはら小児科
○冨賀見紀子、金原洋治、鮎川淳子、石本美香代

小学校中学校の学童は心身が急激に成長し、それに伴って心身のコントロールが課題の一つとなります。高機能広汎性発達障害をもつ子どもにとっても、この時期は大きな節目となるようで、精神科的な症状を生じやすいことに気づきます。
なぜこの時期に症状が出現しやすくなるのでしょうか。広汎性発達障害の特性をもつ子どもが「こころの理論」を獲得するとされる年齢に到達し「なんだか違っている」ことに気づいて苦悩しているのでしょうか。「実行機能」が弱いとされる認知特性から、その「異なり」を知りつつも「異なる点」を理解するのに苦労しているのでしょうか。これら現実を知ってくる時期にファンタジーとの区別がつかず混乱しているのでしょうか。高機能広汎性発達障害と診断され妄想の様相、急激な気分の変調を呈した小学校4年生女児の事例を提示し、学童中期のそだちをどう支えていくことが出来るのか考えてみたいと思います。

6. 広汎性発達障害児者への個別ソーシャルスキルトレーニングの実際

広島県立障害者療育支援センター
長島智子(臨床心理士)、洲裕典、河野政樹

私たちのセンターでは、学校や日常生活において不適応を示した広汎性発達障害児者を対象に、個別ソーシャルスキルトレーニング(以下個別SSTと略す)を行っている。これは、対象児者が個別SSTを受講することで人との相互作用を学び、社会の中で対人関係能力を発揮し、円滑な生活を維持できることをねらいとしている。本研究では、対象児者の保護者からのアンケート調査をもとに、個別SSTの効果を明らかにし、どのようなケースに個別SSTが有効なのかを検討する。

7. テレビをつけっぱなしにすると赤ちゃんの心が育たない
~泣き出したら止まらない。夜泣きが激しい。呼んでも振り返らない。ごっこ遊びをしない。目を合わせない。声を出して笑わない。まねをしない。指差ししない。~

kids21 子育て研究所  片岡 直樹

2004年3月16日付け朝日新聞声の欄に「テレビを消してほほ笑む息子(主婦30歳)」の記事が掲載されました。『私には生後5ヵ月になる一人息子がいる。テレビをつけっぱなしにすることが多かった。息子が私と目を合わせず、笑わないことにはっと気付いた。これではいけない。すぐテレビを消した。しばらくして、息子は私をみて、にっこりほほ笑むようになった。』この記事のすばらしいところは、小児科の医師から指摘されてテレビを切ったのではなく、母親自身が気付いたことであります。私は長年、乳児早期から表情が少ない、笑わない、泣かない、声を出さない、呼んでも振り向かない、目線が合わないなど、他者とのコミュニケーションがとれないサイレントベビーにたくさん出会っています。
今回、テレビのつけっぱなし環境を見直したところ、赤ちゃん自身が普通に健全に育った体験例を提示し、“発達障害”が急増している現状を紹介します。

8. 女の子はいらない・生まれたら殺しそう =妊娠中からの虐待予防=

高知県立中央児童相談所 ○澤田 敬(さわだ けい)
高知県香南市健康対策課  小串寛美(おぐし ひろみ)

28歳、初産。妊娠4か月。妊娠虐待予防チェックリストで、「女の子はいらない、頼れる人がいない」等が書かれていた。女児と判明。「生まれたら殺しそう」と言う。保健師と共に来所。母は子供時代に母親、祖母、姉から虐待を受け、中学時代非行に走った。「虐待されて育った私は子供を虐待する。子供が母親、祖母、姉、私の血を引いているので大混乱の女性になり苦労する。子供が生きるということは、苦しむこと。子供を産み、育てることができますか」と言った。「子供が苦しむ。産み、育てることをしてはいけないという悩み、これ以上強い愛情はないのでは」と説明した。母は自分の心の中に気付いた。その後頻回に保健師と会い、虐待を受けて辛かったこと、頼れる人がいないこと、出産準備等について話した。9ヶ月、転出した。その後も保健師との関わりは続いた。女児を無事に出産し父母とも喜んだ。現在10か月。「女の子は可愛い」と言って育てている。

9.摂食障害を疑われた脳腫瘍の女児例

津山中央病院小児科
○片山 威、林 明日香、坂田晋史、北本晃一、杉本守治、梶 俊策、藤本佳夫 

症例は12歳女児。全身倦怠感・腹痛・嘔気のため食事できなくなり、3月で体重が10減少し紹介された。初診時、皮膚のツルゴールが低下し、自立歩行できなかった。体重に関する認知のゆがみは明らかでなかった。採血でTSHが軽度低下し、腹部CTで直腸に多量の便塊を認めた。安静のため入院で行動を制限し、再栄養療法を行った。腹痛軽減につれ頭痛が目立ち、頭部MRIで視床下部の占拠性病変を診断した。
摂食障害を早期発見・治療するために、体重減少と夜間の徐脈の2項目で疑診する「思春期やせ症、小児診療に関わる人のためのガイドライン」が公表されている。本例ではこれに基づき摂食障害を疑うが、確定診断の基準にある体重へのこだわりやゆがんだ身体像等は明確でなかった。摂食障害に準じて栄養管理を行いつつ、鑑別診断を進めたところ脳腫瘍の診断に至った。
本ガイドラインは体重減少をきたす器質的疾患の初期管理と診断にも有用である。

10.背景因子の一つとしてスピリチュアルな痛みの存在が考えられた思春期胃十二指腸潰瘍の一例

瀬戸内海病院
○加賀城惠一、安藤美智子、小野山啓子(小児科)、小堀迪夫(消化器内科)

成人小児いずれにおいても心身相関の観点から注目されてきた消化性潰瘍であるが、Helicobacter Pyloriが主因と考えられるに至って、心因に関しては些か限定的になってきた感が否めない。今回多彩な消化器症状で受診し経過観察中の中学生男児(発達障害は見られない)において、器質性疾患を否定するためになされた内視鏡検査で広汎な消化器潰瘍が見られた。また後日施行した呼気法によりHelicobacter Pylori陽性であったが除菌に成功した。それと同時に文章完成法テストの中に示された多くのスピリチュアルな痛み(葛藤)を受け止めることにより、症状の軽快を見た一例を経験したので報告する。

11. 目のイラストに感情を表現できない不登校児

○二宮 恒夫、橋本 浩子、芝崎 恵、谷 洋江、岸田 佐智
(徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部)

12歳男児。胃腸症状が出現し、夏休み明けから登校できなくなった。塾には通い、後期から登校できていたが、正月明けから再び不登校。緊張感の度合いを0から10で表すと、玄関を出ると4~5、交差点では6~7、生徒を見ると7~9、学校では10、家が見えると3、帰ったら1にまで落ち着く。おばあちゃん宅では0。友人宅に遊びに行き、店の中では皆が目的を持って動いているから気にならなかった。抗不安剤などの薬物投与を行ったが効果なし。父親は子どもの意見を受け入れず、自分の意見を押しつけた。母親には、家ではニコッとしていてほしいと。小学校の時、教頭に納得のいかない叱られ方をした。目のイラストに対する感情表現では、記載できないものとか、ほとんどの人が陰性感情を選ぶイラストに陽性感情を選んだ。相手の表情にとまどうことが多いのか、普通とは違ったとらえ方をしていると推測された。このことを理解し対応することが大切である。

このページのトップへ

【会長講演】

子育て、育ちの歴史的考察  ~過去から今を知る~

小池医院 小池 茂之

世界一子どもに優しかった江戸の子育て

  1. 江戸時代の200数十年間、鎖国、太平のなか西欧文化の影響を受けず、社会全体が子どもを包み込むような、日本独特の優しい子育て文化が庶民にも広くゆきわたっていたようである。
  2. 子どもたちには節目節目に数々の通過儀礼(子どもの寿命が短かったため妊娠から乳幼児期に集中)を通して、親類、地域の多くの人たちが接近し、それぞれの儀礼に関わった人が仮の親となり、結局は多くの人が一人の子どもの面倒をみ続けるという温かい子育てネットワークがあった。これは日本独特の伝統的子育てだと思われる。
  3. 江戸末期から明治に来日した複数の欧米人が、日本の親子の親密さを目の当りにし、一様に感動して、日本の子どもは世界一幸せであるという意味のことを書き残している。

ところが今の日本の子育て、教育は

  1. 最近の子どもをめぐる問題は、様々な社会的、経済的、文化的要因が複雑に絡み合っていると考えられる。
  2. 子どもにとって直接大きな影響力をもつ家庭・家族の関係性は益々深刻化し、その究極は虐待の急増である。
  3. 平成元年に国連で「子どもの権利条約」が満場一致で採択されたが、日本政府が批准したのは平成6年、158番目、その実施状況の報告への対応はきびしいもので、その1つ教育について「極度に競争的な教育制度によるストレスのため、子どもが発達上の障害にさらされていることを懸念する」という勧告、日本だけの勧告といわれている。
  4. 今や、日本の子育ては世界一きびしくなったと思われる。

江戸の優しい子育てから、現在のきびしさを増す子育て、その間、何があったのか、今、何ができるのか考察したいと思います。

このページのトップへ

【ランチョンセミナー】

「子どもの生活とメディア」~NPOと自治体によるメディアスタート大作戦~

NPO法人こども未来ネットワーク理事長 渡部 万里子 

子どもの成長発達にメディアが及ぼす影響ははかり知れません。けれど私たちの暮らしの中に今やメディアは欠かせない存在となっており、乳幼児期からさまざまなメディアに触れるのはもちろんのこと、幼い頃から自分専用のメディア(携帯型ゲーム機・携帯電話)を持ち歩く姿も目にするようになりました。ゲーム世代、ケータイ世代が親となり、「子どもとメディア」の問題は、子育て世代の親の問題なのだと改めて考えさせられます。

こうした問題を改善しようと平成14年よりNPO法人こども未来ネットワークでは、「子どもとメディア出前講座」 をはじめ、 子どもとメディアのより良い環境づくりをすすめる活動を鳥取県内各地で取り組んできました。 これまでの活動を通じて見えてきたこと、 そして新たに境港市 (子育て支援課) との協力で実現したメディアスタートの取り組みについてご紹介します。

このページのトップへ

【ミニレクチャー】

第11回世界乳幼児精神保健学会世界大会(WAIMH世界大会・横浜)に参加して

第11回WAIMH世界大会日本組織委員会会場委員長
FOUR WlNDS乳幼児精神保健学会 会長 澤田 敬

2008年8月1~5日、アジアで初めてのWAIMH世界大会が、慶応大学小児科の渡辺久子会長の下で開催された。世界43カ国から約2000人が集い(海外約500人、国内約1500人)、WAIMH史上最大の大会だった。保育士、保健師、助産師、看護師、心理士、児童福祉士、小児科医、精神科医など幅広い職種の人達が気楽に参加できる会であり、transdisciplinary (あらゆる職種の人が、全く平等に、その専門性を生かせ、助け合う)の精神が貫かれていた。私の感じたことを羅列してみる。

  1. 老齢の研究者90歳のBrazeltonをはじめ、Stern、Emde、Trevarhten、Cramerなど70歳以上の高齢研究者達が、新しい研究の講演をしたのには驚いた。私などまだまだ若者だと勇気づけられた。
  2. 関係性・間主観性ほとんどは子供と家族の関係性の研究だった。また妊娠中からの親子関係の研究も多数あった。間主観性(心の響き合い)を元にした親子関係の研究が多かった。
  3. 甘え最大の喜びは土居健郎先生の甘えの研究が世界的に評価され、当学会最高の賞であるSpitz賞を授与されたことである。Brazelton、Emdeに次ぐ、史上3人目の快挙だった。世界の研究者が日本の甘えについて非常に興味を持っていることがわかった。
  4. 講演一般演題を含めての講演・発表が約600題中、国内からの講演・発表が約150題あった。国内ではまだ―般化していない乳幼児精神保健に関心を持っている人が多くいることに驚き、日本の将来に明るさを感じた。
  5. 私達の研究発表あまえ"をべースに8題の研究発表をした。其々みな高く評価された。アタッチメント研究をしているジュネーヴのB.Pierrehumbertは 「西欧人はアタッチメントを子どもの早期自立に使っている。 日本の"あまえと随分違うような気がする」 と言い、「アタッチメント共同研究に参加してもらいたい」 と誘われ、 参加することにした。

海外参加者から「日本で、これだけ乳幼児精神保健に関心を持った人がいることは驚きである」という声があった。会場係は全てボランチアだった。英語の話せない人もボディランゲイジで和やかな雰囲気を作り、海外の人達に非常に喜ばれた。holding、間主観性、情動調律を基礎とした甘えの精神を感じてもらったのではないか。

このページのトップへ

【特別講演 1】

開業小児科医の立場から子育てへの提言

九州小児科医会会長、医療法人松本小児科医院理事長 松本 壽通

この20年間、福岡市教育委員会が毎月主催する学童精神保健協議会に出席し、多くの事例に接して分かったことの一つは乳幼児期における家族のかかわりでした。

家族が比較的よくその機能を果たしている場合は、子どもが登校拒否など、心の問題に陥っても、通常、時間はかかるが、教師や関係機関の適切な対応によって登校を始める予後良好な場合が少なくありません。しかし離婚、父親の犯罪、アルコール中毒などによる家庭崩壊型といえるものの多くは、そのままでは将来、非社会性の成人になる恐れがあって、早く支援の手を、と考えても有効な手段が見つからず、心を痛める事例があります。一方、家庭崩壊型で、今までの経験からは予後不良と考えられたものでも、乳幼児期に母子分離などの経験もなく、両親の温かい愛情のもとに育った子では、幸いにも好ましい経過をとる事例もあることが分かりました。

このように乳幼児期に母子の結びつき、愛着が充分になされていると考えられる場合は、たとえ学童期以後に家庭崩壊に陥っても子どもは重度の登校拒否にならず、適切な指導によって改善されるのではないかという印象をもっています。つまり、乳幼児期における母子の温かい結びつきは将来、心豊かな情緒的発達の上に大きな影響を残していることが分かります。

逆に乳幼児期に経験された両親の不和、親子分離、さらに虐待などによる子どもの受ける心の傷は、将来、決定的なものでないにせよ、予後不良の登校拒否、あるいは非行につながる恐れがあります。従って、安全基地としての機能を失った家族の子どもに対して、保育士、保健師や小児科医をはじめ関係者は子どもが心の問題を起こす前に、乳幼児期から心の健康を保つ上に必要な、適切な育児相談を行うことが要求されます。例えば、保育園や乳幼児健診の現場において、育児機能に問題がある家庭の子に接した時や、母親に育児不安が感じられる時などの場合、子どもの将来の心の問題を予防するために、現在子どもを養育している者(母親がいなければ祖母、保育園の保育士など)による、しっかり抱きしめてあげるような温かい愛着行動(アタッチメント)やmothering (母親らしさ)を充分に行うことの大切さを強調する必要があります。そして、現在このような環境にあっても、乳幼児期に充分な愛情を与えられた子は心も立派に育つことなどを話すことが必要です。

1998年に発表された、米国における乳幼児保育に関する大規模な研究によれば、子どもの問題行動、乳幼児の愛着の不安定さなどは、保育の要素よりもむしろ、家族の特徴と母子関係の質の方が発達に強い関連を示したことは注目に値する事実と考えられます。

このページのトップへ

【特別講演 2】

子どもの心の発達発達障害を視野に入れて ~児童思春期精神科医の立場から

大阪人間科学大学名誉教授 服部 祥子

児童思春期の精神科臨床の場に長らく身を置いてきたが、私は原則として思春期の挫折を恐れる必要はないと思ってきた。思春期は性の成熟と親からの心理的別離の中で、児童期までに作り上げた自分をとらえ直し、真の自分らしさを形成しようと努める激動と試練の季節で、本来健康な意味で危機的状況にあると考えられるからである。

ところが近年思春期の様相が変わってきたように思う。かつては不安、混乱、劣等感、 自尊心等が激しく渦巻く中を張りつめた緊張と苦悩を抱えて生きているのを脈々と感じたが、 今はむしろよどんだ疲労感、 抑うつ感が強く、 空虚感や死を口にするものも多い。 また対人間関係が生硬未熟で、 孤立感とくに疎外感が強く、 さらに最近は特定の相手 (親や友だち) や周りにいる見知らぬ人に対して前後の見境なく激しい幼児的攻撃心をぶつけたりする事例が増えた。 その背景には子どもの育ちを阻害する数々の要因、 例えば圧倒的な体験不足 (親子体験、 他者体験、 自然体験)、 メディアの変容による生活環境や対人関係の激変、親や家庭の病理を子どもが背負わされる等があると考えられる。そこでまず乳幼児期時期からの心の発達過程を今一度見つめ直し、家庭や家族の役割とその支援を考えたい。

その上で、近年しばしば話題になる発達障害を視野に入れて、子どもの発達を考察してみたい。

2005年に発達障害者支援法が制定され、これまで「認定」されてこなかった発達障害に対する特別支援教育がスタートした。それに該当するものは高機能自閉症やアスペルガー症候群を含む広汎性発達障害(PDD)、学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)とその周辺群である。その多くは知的発達の遅れ(いわゆるIQテストの低値)はないが、幼少期より気になる子どもとして家庭や幼・保園・小学校で注目されているものである。これらは脳の機能障害によって起こると推定されているが、「発達障害=脳の障害」と科学的にすべてが言い切れるわけではなく、曖昧模糊としている。従って私は診断そのものに特にこだわらないが、これらの発達障害に共通してみられる「想像力」「コミュニケーション」「対人関係を調節する態度」の三つの特徴的な問題は、発達を考える上に極めて重要なものといえる。つまりこれらの問題行動は脳に障害がなくても、極めて不適切な環境に置かれたり、極端な体験不足や、異常な又は偏った体験をすること等により、しばしばあらわれてくる。そこで「想像力」「コミュニケーション」「社会性(対人関係)」の発達を豊かにするためにどのような英知が結集できるか考えてみたい。

このページのトップへ


その他の地方会のご案内