(8)非器質性視力障害
関西医大総合医療センター小児科/関西医科大学小児科学講座
はじめに
物が見えにくい、ゆがんで見える、二重に見えるなどの視力の低下や視機能の異常があるのにもかかわらず、医学的な検査により原因が見つからないものを非器質性視力障害といいます。この中には心因性もしくはストレス性視力障害も含まれます。小・中学校の女子に多く、男女比は1:2~4、好発年齢は9~11歳といわれています。
視力障害といっても、必ずしも子どもたちは「見えない」「見えにくい」と訴えるとは限りません。中には学校健診などで偶然見つかるタイプ(非転換型と呼ばれています)もあります。視力低下を訴えるタイプ(転換型)と訴えないタイプ(非転換型)とは、おおよそ転換型:非転換型=1:9といわれています。
症状のなりたち
視力低下の自覚症状を訴える転換型の場合、ストレスが身体症状として表現されたものと考えられます。非転換型の場合には、子どもの成長する過程での、神経系と感覚機能の発達のあり方、すなわちさまざまな視機能が完成に向かう時期にバランスをくずしやすく、視力が不安定なことが関与していると考えられています。
また「見る」「見える」ことは、私たちの生活の基本的な部分であるために、視力に異常をきたすとつい過剰に反応してしまいます。最初のちょっとした症状に本人や周囲が注意を集中することにより、その症状を強化し長引かせてしまうこともあります。
心理要因
「はじめに」で、非器質性視力障害の中には心因性もしくはストレス性視力障害も含まれますと書きました。つまり、非器質性視力障害には心理的誘因の見つからないものもあります。また心理要因といっても、関与の大きなものから小さなものまで様々です。大変ショッキングなものを見てしまった後に起こってくるもの、日常生活の中で繰り返される「見たくないもの」を避けるために症状が現れるような深い問題もあれば、眼鏡をかけた姿にあこがれる眼鏡願望のような場合もあります。子どもの性格特性としては、どちらかといえば、内向的で自己表現が苦手なお子さんが多いようです。
診断
本人は症状を訴えずに学校健診で視力障害が見つかる「非転換型」、「見えない」「見えにくい」ことを訴える「転換型」ともに、まずは眼科で専門的な検査(視力検査や視野検査といいます)を受けます。時には小児科や神経内科で他の神経疾患がないかどうかを調べる場合もあります。その結果、視力障害を引き起こす他の病気が見つからない場合に非器質性視力障害と診断されます。時には視野や視力で非器質性視力障害に特徴的な検査結果が見られる場合もあります。
また心理的ストレスが強い場合に、視機能障害のほかに頭痛や腹痛、全身倦怠などの他の身体症状を訴えることもありますが、それぞれの症状についても、それを引き起こすような検査の異常を認めないのが特徴です。
経過と対応
ますは視力低下によって起こる数々の不都合に耳を傾けつつも、視力低下に過敏になりすぎないよう心がけます。非転換型ではなぜ視力が低下しているのか、体に何が起こっているのかを説明して、不安な気持ちをやわらげ、視力は時間がたてば回復することを伝えるとそれだけで視力が改善していく場合も見られます。しかし視力以外のもさまざまな症状を訴えたり、不登校を伴ったりするような場合には心理療法が必要になります。心理療法では自身の中に抑えこんだ子どもの感情を表現させるようにします。
また家庭や学校でも出来る対応として、「目を大事にすると視力がよくなる」という暗示を与え、遠くの景色、星や山などを見るように心がけ、その間テレビ、ゲームやマンガを禁止します。その後、視力が上がれば、禁止していた物事を短時間から見ることが出来るようにし、徐々に伸ばしていきます。
専門機関では薬物療法が行われることもありますが、非器質性視力障害に対する特殊な薬物はなく、あくまでも感情面の安定や身体面への対症療法です。薬物を必要に応じて用いながら、子どもの心に抑圧した思いをほぐし、子ども自身の回復する力を信じて支えていくことが大切です。