アレルギー性疾患(気管支喘息・アトピー性皮膚炎・食物アレルギー)
アレルギー疾患は、生命危機に直面することがありますので、必ず疾患に対する適切な薬物治 療が第一選択です。複数のアレルギー疾患が併発していることが多く、増悪する季節には、複 数の疾患がコントール不良になりやすく、かゆみや発作(咳・鼻閉・息苦しさなど)により睡 眠や日常生活が妨げられ、自律神経系に負荷がかかることがあるため、心身医学的対応が必要 になります。
気管支喘息
1. 概要・定義・診断、症状、診断法
気管支喘息は、気道の慢性炎症を特徴とし、発作性に起こる気道狭窄によって、咳嗽、呼気 性喘鳴、呼吸困難を繰り返す疾患です。乳幼児5歳以下の診断は、気道感染の有無にかかわ らず24時間以上続く呼気性喘鳴を3エピソード以上くり返し、治療薬への反応があれば診断 ができます。気管支喘息以外の喘鳴をきたす疾患は除外します。肺機能検査やアレルゲン検 査は参考になりますが、診断は上記の症状です。
2. 治療・対策
治療は2段階、1STEP 急な気管支狭窄である発作を抑える。気管支拡張剤の吸入が主な 治療です。2STEP 気道の慢性炎症を抑えて治す。ステロイドや気管支拡調剤の吸入薬と ロイコトリエン受容体拮抗作用をもつ内服薬を長期管理薬として継続的な治療が必要で す。重症例は、生物学的製剤により気道炎症を管理します。
加えて、発作を誘発する原因物質を取り除くための環境整備は大切です。ダニ・カビ・花 粉・たばこ・ペットを生活環境からできるだけ避けることが必要です。
3 .合併症・併存症・心身医学的治療のポイント
発作が誘発される原因として、心因性(学校・試験・緊張など)が考えられる際は、喘息の 治療を継続しながら、気づきを待つことも大切です。ストレスが原因である過換気症候群と して考えられて、正しい喘息治療ができていないために運動誘発性喘息が見落とされている ケースがあります。一方で、喘鳴を反復するために、治療薬を漫然と投与されている声帯機 能不全(Vocal cord dysfunction)や心因性咳嗽などもありますので、症状が軽快しない ときには、アレルギー専門医へ紹介し、気道可逆性試験や声帯ファイバー等、検査が必要で す。
アトピー性皮膚炎
1. 概要・定義
アトピー性皮膚炎は、増悪と軽快を繰り返す瘙痒のある湿疹を主病変とする疾患です。アト ピー素因とバリア機能の脆弱性による皮膚の過敏を引き起こし、慢性炎症などが関与する多 病因性の疾患です。
2. 症状
左右対称性の分布を示す湿疹性の疾患です。乳児期あるいは幼児期に発症し小児期に寛解する場合もありますが、成人期まで持続することもあります。
3. 診断法
ダニ、ハウスダスト、花粉、真菌、食物など複数のアレルゲン特異 IgE 抗体が陽性になります。血清 TARC やSCCA値は、診療の参考にあります。
4. 治療・対策
薬物療法(ステロイド外用薬・タクロリムス軟膏・デルゴシチニブ軟膏・ジファミラスト 軟膏)、スキンケア(入浴・清潔)、悪化因子(汗・外用薬など)への対策が基本です。 かゆみのコントロールは重要であり、抗ヒスタミン薬や生物学的製剤の適応もあります。
5. 合併症・併存症
感染症の合併として、伝染性膿痂疹、カポジ水痘様発疹症、伝染性軟属腫が頻発します。重 症例では乳幼児では、低ナトリウム血症、低タンパク血症や顔面の症状がひどいケースでは、 眼科的疾患(角結膜炎、円錐角膜、白内障、網膜剝離など)を合併しやすいため、眼科受診 が必要になります。
6.心身医学的対応
かゆみに対する感覚過敏と搔破行動は、心理的因子の影響を受けやすいため、搔破するタイ ミング(夜間・勉強中・叱られた時など)を聞き取り、認知・行動療法を行うこともありま す。また、増悪予防としての過剰な生活制限や「掻いてはだめ」など、行動を抑制すること により、子どものストレスを増し、かゆみを引き起こすこともあります。治療者は、掻把行 動だけにとらわれることなく、子どものこころの視点から包括的に診ることも大切です。ま た、発達特性をもつお子さんは、感覚過敏により、軟膏を塗布することに対する嫌悪感から、 搔破行動を引き起こし、皮疹をより増悪させることもありますので、お子さんの感情や特性 を考えて治療法を選択することが必要です。
食物アレルギー
1. 概要・定義
食物によって引き起こされる抗原特異的な免疫学的機序を介して生体にとって不利益な症状が惹起される現象と定義されています。
2. 症状
皮膚、粘膜、呼吸器、消化器、神経、循環器などのさまざまな臓器に症状が誘発されます。 アレルゲン曝露から症状誘発の時間経過によって、即時型反応と非即時型反応に分けられま す。免疫学的機序によって、IgE 依存性と非 IgE 依存性に分けられ、IgE 依存性反応の多く は即時型反応を呈すると言われています。アナフィラキシー(アレルゲン等の侵入により、 複数臓器に全身性にアレルギー症状が惹起され、生命に危機を与え得る過敏反応)を生じた り、血圧低下や意識障害を伴ったアナフィラキシーショックを起こすことがあります。
3.診断法
食物アレルゲンの摂取と症状誘発の関連を聞き取り、免疫学的検査として特異的 IgE 抗体 検査や皮膚プリックテストを行います。食物経口負荷試験(oral food challenge, OFC)は、 アレルギーが確定しているか疑われる食品を単回または複数回に分割して摂取させ、症状の 有無を確認する検査もありますが、全身管理ができる施設で専門医が行います。
4.治療・対策
食物アレルギー管理の原則は、正しい診断に基づいた必要最小限の原因食物の除去を行い、 患者や家族に対して、誤食などによる誘発症状を防止するための注意点を指導し、集団生活 における管理を園や学校にアレルギー管理・指導を行います。アレルギー症状が誘発された 場合に使用するエピネフリン自己注射や内服薬を所持してもらいます。食物経口負荷試験な どで原因食物の食べられる範囲を確認し、安全性を確保できる範囲の摂取を指導し、過剰な 制限はしないようにします。
5.心身医学的対応
重篤なアナフィラキシー症状の経験や発達特性をもつお子さんは、原因食材に対するこだわ りと嫌悪感から、完解状態になっても食べることを嫌がることが多々あります。給食進めて いく必要がある場合は、原因食材の色や匂いを変える工夫(例牛乳乳の匂いを消すためにコ コアを混ぜる。卵の黄色をわからなくするために、ケッチャプを混ぜるなど)や子どもが食 べたいと言ったファーストフードや菓子などから始めると食べられることがあります。食べ ることに対する恐怖心を生まないように配慮することが必要です。
(南和歌山医療センター小児アレルギー科 土生川千珠)