起立性調節障害
1.概要
起立性調節障害(Orthostatic Dysregulation:OD)は、立ち上がった時に頭痛、めまい、倦怠感などの症状がでる病気で、血圧や心拍数など循環器系の自律神経の調節に不調をきたすことが原因になります。思春期に発症しやすく、午前に症状が強いため、学校生活に支障をきたすことがあります。重症例では不登校やひきこもりになってしまい、その後の社会復帰にも大きな支障をきたすことがあります。
ODの有病率は軽症例も含めて中学生の約10%と多くの子どもたちを苦しめている病気で、不登校の約3-4割にODが併存することから、家族だけでなく学校の理解も大切になります。発症の早期から重症度に応じた適切な治療と家庭生活や学校生活における環境調整を行い、適正な対応を行うことが不可欠です。
ODの成因には下記のものがあげられます。
1)起立に伴う循環動態の変動に対する自律神経による代償機構の破綻
2)過少あるいは過剰な交感神経活動
3)水分の摂取不足
4)心理社会的ストレス(学校や家庭のストレスなど)の関与
例:身体が辛いのに登校しなければならないという圧迫感から症状悪化。
5)日常の活動量低下→筋力低下と自律神経機能悪化→下半身への過剰な血液貯留→心拍出量低下・脳血流低下というdeconditioningが形成されるとさらに増悪
2.症状
ODの症状には頭痛、立ちくらみ、めまい、朝の起床困難、怠さ、食欲低下、失神などがあります。
症状は、午前に強く午後に軽減する傾向があります。また、立ったり座ったりすると症状が強まり、横になると軽減します。雨の前など気圧変化の影響も受けやすいことが特徴です。
夜に目がさえて寝られず、起床時刻が遅くなり、悪化すると昼夜逆転生活になることもあります。
3.診断法
1)立ちくらみ、失神、気分不良、朝の起床困難、頭痛、腹痛、動悸、午前中に調子が悪く午後に回復する、食欲不振、車酔い、顔色が悪いなどのうち、3つ以上、あるいは2つ以上でも症状が強ければ起立性調節障害を疑います。
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2)鉄欠乏性貧血、心疾患、てんかんなどの神経疾患、甲状腺などの内分泌疾患など、基礎疾患を除外します。
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3)新起立試験を実施し、以下のサブタイプを判定します。
(1)起立直後性低血圧(INOH)
(2)体位性頻脈症候群(POTS)
(3)血管迷走神経性失神(VVS)
(4)遷延性起立性低血圧(DeOH)
(近年、脳血流低下型、Hyper-response型など新しいサブタイプが報告されているが、診断のためには特殊な装置を必要とする。)
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4)検査結果と日常生活状況の両面から身体的重症度を判定します。
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5)「心身症としてのOD」チェックリスト(ガイドライン参照)により、心理社会的関与を評価します。
4.治療
治療は身体的重症度と心理社会的関与の有無に応じて、下記の1)~6)を組み合わせた治療を行います。
1)疾病教育
子どもの多くはODの症状の原因がわからず不安になっています。一方、家族の多くはOD症状を精神的なもの、気持ちの問題と考えてしまい、子どもが怠けているからなどネガティブにとらえがちです。それは子どもにとって心理的ストレスとなり、自律神経を介してOD症状を悪化させてしまいます。
ODが身体の病気であることを親子に丁寧に説明することで、親子とも不安を軽減できます。
2)非薬物療法(日常生活上の工夫)
・頭を下げながらゆっくり立つ。
・静止状態の起立保持は、1-2分以上続けない。短時間での起立でも足をクロスする。
・水分摂取は1日1.5-2リットル、塩分摂取は普段の食事+3gを目安にする。
・毎日30分程度の歩行を行い、筋力低下を防ぐ。
・早寝早起きなど規則正しい生活リズムを心がける。
3)学校との連携
学校関係者にODの理解を深めてもらい、ODの子の受け入れ態勢を整える。
資料『起立性調節障害~クラスメートに知ってほしいこと~』も学校での理解を深めるために有用です。
4)薬物療法
非薬物療法を行ったうえで薬を処方します(ミドドリンなど)。薬物療法だけでは効果は不十分と考えます。
5)環境調整
周囲の無理解により子どもが傷つき、周囲への不信感から孤立しないようにするために、家族や学校にODの理解を促します。
6)心理療法
子どもの身体症状のつらさ、学業面への焦りや不安、周囲の無理解による否定定な対応への傷つきなどを傾聴し、受容を示すことは、「理解してもらえた」という安心感につながり、信頼関係の構築に役立ちます。
日常生活に支障のない軽症例では、適切な治療によって2〜3ヶ月で改善します。学校を長期欠席する重症例では社会復帰に2〜3年以上を要します。
5.併存症
1)身体面:頭痛(片頭痛、緊張型頭痛)、機能性消化管障害(胃腸の動きの問題による吐気、腹痛、便秘、下痢)、睡眠障害(寝つけない、朝起きられない、昼夜逆転)など
2)心理・行動面:脳血流低下に伴う集中力や思考力の低下、神経発達症、不安症、抑うつ、インターネットゲーム障害、不登校など
(大阪医科薬科大学小児科 吉田 誠司)