機能性頭痛

 頭痛は、つらい症状であるにもかかわらず、まわりにはそのつらさが伝わりづらいため、苦しんでいるお子さんも多いと思われます。検査で異常は見つからず、原因が分からないと言われながら、頭痛をくり返していると、身体的にも精神的にも負担がかかってきます。慢性的な頭痛を訴える子どもたちは、身体的要因(Bio:片頭痛や緊張型頭痛などの一次性頭痛)・心理的要因(Psycho:精神状態、自己肯定感など)・社会的要因(Social:学校や家庭環境、友人関係や家族関係)など、さまざまな要素が絡み合うことで、頭痛が悪化しています。
 では、「頭痛でつらそうな子」に対して、どのように対応してあげるとよいのか。BPSモデルを意識した対応、すなわち薬で身体的要因のみを治療するのではなく、心理的要因や社会的要因にも注目して治療することを提案しています。「頭痛」という症状を取り除くことに必死になるのではなく、患児が診察室から出て、その後の生活をどのように過ごしているかをしっかり考慮する必要あります。

1. 機能性頭痛とは

 ここでは、機能性頭痛を、「社会的支障度の高い、くり返すなんらかの一次性頭痛(二次性ではない)頭痛」と定義して概説します。
 片頭痛や緊張型頭痛などのいわゆる「頭痛もちの頭痛」は一次性頭痛、脳腫瘍や副鼻腔炎、インフルエンザなどの感染による「原因のある頭痛」は二次性頭痛といいます。「機能性頭痛」は、国際頭痛分類に明記されている病名ではありませんが、頭痛の原因となる病気がない頭痛(一次性頭痛)に相当する頭痛に対して、臨床現場ではよく使われている病名です。
 こちらも正式な病名ではありませんが、臨床上、慢性的な頭痛によく使われる病名として「慢性連日性頭痛」があります。慢性連日性頭痛は、Silbersteinらが提唱した概念で、月15日以上、3か月以上持続する頭痛と定義されています。  
 機能性頭痛が慢性連日性頭痛化すると、不登校・不規則登校につながるなど、社会的な支障度が非常に高くなります。  

2. 疫学

 片頭痛の有病率は、小学生で3.5%、中学生で4.8~5.0%、高校生で15.6%と言われています。小学生では男女差はみられませんが、思春期以降では女児の比率が高くなります。
 緊張型頭痛は日本人の最も多い頭痛であり、有病率は小学生で5.4%、中学生で11.2%、高校生で26.8%とされています。
 慢性連日性頭痛の有病率は1~4.5%、女子の方が男子よりも2~3倍高いと報告されています。

3. 原因

 片頭痛のメカニズムは解明されつつありますが、現在もなお研究が行われているところです。悪天候やストレス・睡眠リズムの乱れなど、さまざまな刺激によって、顔面や頭部の感覚をつかさどる三叉神経の末端から、血管に作用する神経伝達物質(カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)やサブスタンスP)が分泌され、それらの働きで、脳の表面(硬膜)の神経と血管の周囲に炎症がおこり、血管が拡張して片頭痛の痛みが起こると考えられています。
 緊張型頭痛の発症機序は未だ解明されていませんが、末梢性感作(神経が痛みに敏感になっている状態)や中枢性感作(脳が痛みに敏感になっている状態)による疼痛メカニズムの異常が考えられています。
 機能性頭痛の子どもたちは、身体的要因(片頭痛や緊張型頭痛などの一次性頭痛)だけでなく、社会的要因(学校や家庭環境など)・心理的要因(精神状態、自己肯定感など)など、さまざまな要素が絡み合うことで、頭痛が悪化しています。まず、頭痛の原因となっている病気がないかどうかをしっかり検査することも重要ですが、身体面だけに注目せずに、社会的要因や心理的要因も併せて診療していくことが大切です。

4. 診断

 まず初めに、脳腫瘍など、頭痛の原因となる病気が隠れていないか、しっかり見極めることが大切です。危険な頭痛のサインには、SNOOPというチェックリストがあります(図1)。小児における危険な頭痛のサインも図2のような項目が挙げられています(図2)。


 脳外科疾患(脳腫瘍など)・耳鼻科疾患(アレルギー性鼻炎・副鼻腔炎など)・眼科疾患(視力低下など)・内分泌疾患(甲状腺疾患など)・口腔外科疾患(虫歯や顎関節症など)・内科疾患(高血圧・貧血など)など、頭痛の器質的疾患が否定されていることが、以下の一次性頭痛診断の前提となります。これらが否定されるだけで、その安心が頭痛の改善につながることもあります。そのうえで、国際頭痛分類第3版を用いて片頭痛や緊張型頭痛を診断していきます。
 片頭痛の痛みの特徴は、徐々に増悪し、体動によって悪化する強い頭痛です。小児の片頭痛では高頻度に吐き気や嘔吐を伴います。典型的な片頭痛は拍動性の頭痛ですが、小児では拍動性がはっきりしなかったり、幼少のため適切に表現できていないことを考慮する必要があります。頭痛の持続時間は4~72時間とされていますが、小児では成人より短く、2~3時間であることもあります。光過敏や音過敏を伴うことが多いため、「まぶしいのがイヤになる?」「うるさいのがイヤになる?」など分かりやすい表現で確認します。頭痛の前兆として、キラキラした光が見えたり、目が見えづらくなったり、「ものが大きく見える/小さく見える、ゆがんだりモザイクのように見える(不思議の国のアリス症候群)」などの症状を伴うこともあります。悪心・嘔吐や光音過敏を伴い、活動ができなくなるような強い頭痛は片頭痛と考えます。「顔色が悪くて寝込む」「自ら電気を消して静かな部屋で横になる」「好きなゲームをやらなくなる」など他覚的に判断することも必要です。(図3)


 緊張型頭痛は、「頭が締め付けられるような痛み」「頭が重たい感じ」などと表現される頭痛で、片頭痛よりも痛みの程度は軽く、日常生活に支障が出るほど強い疼痛ではありませんが、だらだらと持続的に痛むことがあります。
 連日の頭痛を訴える児の中には起立性調節障害が合併し、頭痛の原因となっていることがあります。起床後や午前中に強い頭痛で、午後から夕方にかけて改善することが多いです。めまい、立ちくらみ、倦怠感、起床困難などの自律神経症状を伴います。午前中の不調により、学校の遅刻や欠席が増え、結果的に不登校に陥っていることもあります。起立試験を実施することで診断します。
 頭痛の頻度が高いと、鎮痛薬の内服回数が多くなり、「薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)」となってることもあります。この頭痛は、鎮痛薬の内服を月に15日以上(薬剤によっては10日以上)を3か月以上継続することで診断されます。病院で処方される鎮痛薬だけではなく、市販薬でも起こるため、この基準を超えないように注意しながら服用することが大切です。
 頭痛が慢性化する要因として、痛みの破局的思考「1.反復(痛みをくり返し思い出してしまう)、2.拡大視(必要以上に痛みを強く感じる)、3.救いのなさ(痛みから逃れられないと考えてしまう)」により、痛みに対しての恐怖・不安が生じ、回避行動(不登校など)となり,頭痛発作がさらに増悪するというさせる」という「痛みの悪循環モデル」が提唱されています(図4)。このような悪循環に陥っていないかどうか注意を払う必要がありますが、そこへ至りやすい認知・発達の特性や、背景因子を知る上で、QTA30やSDQ、ADHD-RS、PRAS-TRなどは有用かもしれません。

5. 治療・対策

 慢性頭痛診療におけるBio-Physical-Social Modelを示します。

【Biological】まず、つらい頭痛の解決をめざす
 どの頭痛に関しても、生活指導などの非薬物療法が基本となります。3食しっかり食べる、質のよい睡眠(寝不足も過眠もよくない)、適度な運動、規則正しい生活が頭痛の予防や治療に有効です。近年、小児でもスマートフォンやタブレットの使用が増えているが、寝る前1-2時間は使用を避けるように指導しています。
 頭痛日誌を記録してもらい、慢性的な頭痛の中に紛れている片頭痛を見つけ、鎮痛薬を適切なタイミングで内服するように説明します。鎮痛薬は「頭痛がきてほしくないから内服する」というように予防的に内服するのではなく、「痛くなり始めたときに早めに内服」することが重要です。痛みがピークに達してからの内服では、薬の効果があまり得られません。小児の片頭痛ではイブプロフェン(ブルフェン®)やアセトアミノフェン(カロナール®)が有効であることが多いです。また、これらの鎮痛薬に制吐薬を併用することで鎮痛薬の効果が高まると言われています。
 片頭痛発作時は、光や音などの刺激によっても頭痛が悪化するため、暗くて静かな部屋で安静にし、疼痛部位をアイスノンなどで冷却することも効果的です。

【Psychological】患児、保護者の不安感の解消をめざす
 連日の頭痛を訴えるわりに重症感がなく、さまざまな症状を訴えたり、薬物治療ではなかなか頭痛が改善しない患児においては、心理社会的な負荷、困りごとがないかという視点からアプローチしてみるのもいいでしょう。。頭痛が改善しないからといって、薬を次から次へと変更し、小児に処方するには好ましくないロキソプロフェン(ロキソニン®)やジクロフェナク(ボルタレン®)などの強い痛み止めを使ったり、予防薬を短期間で処方変更したり、何種類もの薬を併用することは避けるべきです。
 ここで重要なのが、患児にとって痛みは確かに存在するという点です。「こころの問題だね」と片付けるのではなく、痛みに対しての正しい認知を目指していきます。「痛みをくり返し思い出してしまったり、必要以上に強く感じたり、痛みから逃れられないという恐怖・不安から、回避行動(不登校など)となり,頭痛発作をさらに増悪させる」という「痛みの悪循環モデル(図4)」の概念を患児・家族と共有し、頭痛の非薬物療法・薬物療法と並行して頭痛に対しての認知行動療法を進めていきます。
 認知行動療法の具体的な方法としては、患児自身が自分の頭痛とその要因について理解を深めるために頭痛日誌を記録してもらったり、適切な検査・診断・治療により頭痛を軽減することで不安を解消したりという方法があります。
 
【Social】家庭環境の問題、園や学校での問題の解決をめざす
 上記の身体的要因(Bio)や心理的要因(Psycho)の治療を進めていく過程で、頭痛症状とうまくつきあうことができるようになってくるにつれ、少しずつ心のゆとりが生まれてくると、患児や家族に「気づき」が生じます。可能であれば、患児のみでの医療面接を行ったり、家族や友人・教師などからの情報を得たり、多職種(看護師や心理士など)にも協力を得たりして、患児を取り巻く環境(いじめなどの学校環境、両親の不和・経済状況・虐待などの家庭環境)の問題の有無を確認していきます。
診察時に頭痛日誌を患児とともに確認し、症状の振り返りなどを一緒に作業することで、患児との信頼関係を構築し、「頭痛で毎日つらいけど、よくがんばってるね」と患児をねぎらう声かけを心がけ、「頭痛をすぐにはゼロにできないけど、今できることはなんだろうか」「まずは、15分くらいのウォーキングをしてみることから始めようか」「だいぶ調子が良くなってきているようだから、週に2回程度、午後からの登校を目指してみようか」などと、患児に寄り添いながら、small stepで望ましい行動を増やしていきます。

6. おわりに

 頭痛は、経済的損失が本邦で2兆円に上るといわれていたり、2016年の世界保健機関(WHO)の障害年数(years lived with disability:YLD)において健康寿命を短縮する疾患の第2位に挙げられているほど、人類にとって負担の大きい疾患です。これは大人だけでなく、子どもにとっても同様です。
「子どもの頭痛」についての理解が広まり、頭痛のある子もない子も、共に向き合い、自分らしく毎日を健やかに過ごせることを願っております。

 

(東京医科大学病院小児科・思春期科/藤野医院内科・小児科 竹下 美佳)

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