性別違和
1.概要・定義
「性別違和」は、一般的な言葉としても使われますが、アメリカ精神科医学会の診断基準であるDSM-5-TR(2021年)での疾患名でもあります。「出生時に指定されたジェンダー」と「体験するジェンダー」の間に不一致がある状態とされています。
WHOの国際疾病分類ICD-10 (1990年)では「性同一性障害」と呼ばれ精神疾患に分類されていました。2019年に採択されたICD-11では「性別不合」という呼称に変更され、精神疾患ではなく「性の健康に関する状態」のカテゴリーに分類されています。
疾患としての「性別違和」は、上記の不一致に伴って臨床的な苦痛や社会的な機能障害をもたらしている状態とされています。「性別不合」は「割り当てられた性」と「実感する性別」の間に顕著で持続的な不一致を持つものとされていますが、不一致に伴う苦痛や機能障害がなくても診断可能です。不一致があることから、実感する性別で生活し、受容されるための移行(transition)を希望し、その手段として、実感する性別に身体を適合させるためのホルモン療法、手術、又は他の医療サービスを望むとされています。
幅広い性のあり方を総称するLGBTQのうち、T:トランスジェンダーとは、身体的な性と性自認が一致していない人々を意味しており、疾患名ではありません。
2.症状
性別違和の表出は年齢によって異なります。また、性に関する社会文化的な環境にも大きく影響されます。
性別違和感を抱く時期は様々ですが多くは中学生までに性別違和感を持っています。学校生活で制服やトイレなど自分の身体や性別の扱いに不快感を示したり、思春期の二次性徴発来に伴い身体への不快感や不安が増したりすることがあります。周囲に気付かれないように意識して隠すことも多く、学童期から思春期では、不登校、抑うつ、不安、自傷行為などの背景に性別違和が関連していることがあります。思春期が発来する前に発症した場合、性別違和感は成人期まで続くこともありますが、同性愛と気付くなど変化したり収まったりすることもあります。
3.診断
医学的疾患としての「性別違和」の診断は、日本精神神経学会の性同一性障害に関する診断と治療のガイドラインにより専門の精神科医が判定します。
DSM-5-TRでは、体験するジェンダーと指定されたジェンダーの著しい不一致が診断基準に含まれています。子どもと青年・成人で診断基準が異なります。子どもの性別違和には流動性があるため、成長とともに診断に当てはまらなくなることがあり、本人が自分のジェンダーのあり方を模索できるよう、周囲の人には寛容で柔軟な対応が求められます。なお、性分化疾患(先天性副腎過形成など)に伴う場合もあります。
4.治療・対策
周囲の理解と協力が重要で、本人のジェンダーに対する自認を肯定的に捉え、サポートする体制を考えていきます。対応としては、①症状が不安定なものとして見守る、②多様性を尊重し肯定的に受け入れる、③正しい知識を伝える、④守秘義務に配慮しよりよい自己決定の援助を行うなどがあります。学校等では本人がカミングアウトしなくても配慮できる体制(図1)が必要で、文部科学省が性的マイノリティーに関する理解と対応について、手引きを作成公表しています。また、他の児童、生徒に多様な性に対する教育を行うことも重要でしょう。
病院では、性同一性障害に関する診断と治療のガイドラインに基づいて、様々な領域の専門職で構成された専門の医療チームが治療を行います。治療は、精神的サポートと身体的治療に大きく分けられます。精神的なサポートを継続した上で、希望する場合には二次性徴発来後に身体的治療をするかどうか決めることができます。身体的治療は、二次性徴抑制療法(思春期の二次性徴の進行を一時的にとめることで、身体の違和感を軽減する、身体的な変化は治療の中止により消失する可逆的な治療)、ホルモン療法や性別適合手術(原則18歳以上に男性・女性ホルモンを投与したり、手術により積極的に身体の変化を進めたりする、一部不可逆的な変化を伴った治療)などがあります。
5.合併症・併存症
自閉スペクトラム症との併存が多いことが報告されています。うつ病や不安症、神経性やせ症、強迫症など精神疾患を合併することがあります。ハラスメントなどのトラウマ体験から心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症することもあります。自殺願望や自傷行為の背景に、性別違和を周囲に相談できず精神的に追い詰められている場合があるので、もしかしてという視点を持つことが必要です。
(岡山大学病院小児科 重安 良恵)