チック症
1. 概要・定義
チック症は、まばたきや首振り、咳払いなどの突発的かつ非律動的な運動症状を繰り返す病気で、1.5-4倍の比率で男性に多くみとめます。
2. 症状
症状は、単純/複雑、運動/音声と区別されます。多くのお子さんは、3-8歳のころにまばたきや首振りなど顔周辺の単純運動チックで始まります。これらは自然に消失することも多く、1年以内に消失する暫定的チックは、小児の19–24%に認めると報告されています。1年以上続く慢性チックは、症状の改善/消失や再燃を繰り返し、症状は顔周辺だけでなく、肩や手足など多彩になります。
「うん」、「アッ」などの発声や、咳払い、鼻鳴らしなどの音声チックは、運動チックに遅れてあらわれることが多いようです。運動チックと音声チックの両方を1年以上認めるトゥレット症は、小児の0.7%前後に認めると報告されていて、その症状は8-12歳のころにピークとなり、90%前後は成人までに改善します。
3. 診断法
チック症に特異的な検査はなく、DSM-5やICD-11などの診断基準を参照して、経験のある医師が診察することで診断されます。鑑別診断としては、てんかん(ミオクロニー)、小児急性発症神経精神症候群(PANS)、常同運動症、自閉スペクトラム症の常同行為などが考えられます。
4. 治療・対策
他の病気と同じように、チック症の治療・対策も薬物療法と非薬物療法に分けて考えると理解しやすいでしょう。
非薬物療法としては心理教育、環境調整が挙げられます。心理教育は、チック症の症状や経過などの正しい知識を伝えることで、病気の理解を深め、前向きに生活するための教育的支援です。これは本人のみでなく、保護者や教師、友人など患児に関わるひとにも行われるべきで、これにより「過度に指摘する」、「からかう」などの行動が減ることが期待されます。環境調整では、患児のチックに影響する環境を整え調整します。例えば、チックが恥ずかしくて登校を渋るお子さんがいたら、教室の座席を目立ちにくい席に変更する。帰宅後に宿題を始めるとチックがひどくなるお子さんがいたら、宿題を始める前におやつ休憩の時間を入れるようにするなどが考えられます。
また、チックに特異的な心理療法として、ハビットリバーサル、チックのための包括的行動的介入(CBIT)、曝露反応妨害法がエビデンスのある心理療法として報告されています。特にCBITはエビデンスが最も多く、副作用も認めないため、各国のガイドラインで第一選択として示されており、2024年に刊行された本邦のガイドラインでも推奨されています。各心理療法の詳細は専門書をご参照ください。
薬物療法に関しては、本邦ではチック症に対して適応がある薬剤は残念ながらありません。そのため薬物療法がおこなわれる場合は、適応外使用であることと、メリット・デメリットが十分説明されて使用されます。一方、国外ではアリピプラゾールなどの薬剤が認可されています。本邦のチック症に対する薬物療法治療のエキスパートコンセンサスでは、第一選択としてアリピプラゾール、第二選択としてリスペリドンが示されています。また注意欠如多動症(Attention-defect/hyperactivity disorder : ADHD)の治療薬であるグアンファシンはチック症に対しても効果があることが示されており、ADHDを併存するチック症の方の薬物療法として選択されることがあります。
5. 合併症・併存症
チック症はそのほかの神経発達症などの併存が多いことが知られています。特にトゥレット症では、ADHD、強迫症、自閉スペクトラム症、うつ病、不安障害、睡眠障害などのさまざまな精神神経疾患が併存し、85~88%は4~10歳の間に少なくとも1つの併存症を有すると報告されています。もっとも多いのはADHDと強迫症であり、ADHDは50-60%、OCDは30-50%の割合で併存すると報告されています。
(獨協医科大学埼玉医療センター子どものこころ診療センター 井上 建先生)