(16)不登校の早期対応

村上佳津美
堺咲花病院 心身診療科

1.概要

不登校児の多くは身体症状を訴えて休み始めることが多く、小児科医・内科医を受診することが多く、不登校児の初期状態をプライマリ医が扱うケースは少なくありません。しかし実際にはその段階で身体症状の検査がおこなわれ、異常がないとそのまま受診を打ち切られる場合が多いようです。そこで本稿では不登校を早期にどのようにポイントアウトして、どのように扱うかについて記載します。詳細は日本小児心身医学会発行のガイドライン集内不登校診療ガイドラインを参考にしてください。

2.どういった症状から不登校傾向を疑うか

小児科外来にはいろいろな症状をもつ子どもが受診します。一見、風邪症状のように思えるものや、頑固な消化器症状を訴えるもの、慢性疾患をベースにもつものの中にも、診察をしていく中や経過を追っていくと、不登校傾向が背景にある場合があります。その症状に次にあげる特徴みられる場合には、背景に不登校傾向の存在を疑いましょう。

  • 登校すること自体、特定な行事や教科と症状に関連性が予測される。(朝学校に行く前、夜遅くに調子悪くなる。体育のある日は調子が悪い。給食の前に保健室に行く。など)
  • 学校に行かなくてもよい状況では調子が良くなる。 (土日曜日、長期休暇中(夏休み、冬休み、春休みなど)は比較的調子がよい。日中、学校にもう行かなくても良いとわかると調子が良くなる。)
  • 心身症的な訴えの場合、症状には一定の特徴がある。 (症状の部位と程度に変動性があることがある。 訴えのわりに重症感がないこともある。 理学的所見と症状があわないこともある。など)
  • もともと慢性疾患を合併していても症状の悪化、改善に学校状況の関与が疑われる。
  • 症状の出現の前に、学校で今まではしていなかった役割についた。 (学級委員、クラブの部長、生徒会など)

3.不登校傾向を疑った場合にまず聞くべきこと 不登校傾向を疑ったときには、まず以下の項目について話を聞いてみます。

1)いま訴えている症状の他に、次のような症状(頭痛、腹痛、立ちくらみ、疲労感、微熱、不眠、食欲不振)はありませんか。ある場合には、それぞれの症状の程度や一日や1週間のうちでの経過(変動)について、教えてください。(付表の問診表などを活用する)

2)学校にはどのくらい行けていますか(保健室(教室と別室)にはどのくらいお世話になりますか、遅刻や欠席はどのくらいありますか。

3)日々の生活リズムについて教えてください(朝何時に起きて、夜は何時に寝るか、食事はとれているか、学校を欠席したときの日中の生活)。

4)不安、元気が出ない、イライラするなどの状態はありませんか。

5)学校生活で、何か困っていることや環境の変化はありませんか。

6)これまでにも、今回のように体調が悪くなったことや、学校を休みがちになったことはありませんでしたか。

以上の情報を元に初期対応をする。

4.不登校の早期対応の要点

1)身体症状の治療

身体症状に対しては対症的治療を行います。検査で異常がないからといって症状を軽視せず、症状をコントロールする方法を工夫しましょう。児は周囲(家族、医師)が思っている以上に症状に対して 苦痛を感じているので、その解決に取り組むことが不登校の治療の第一段階になります。

(身体症状の取り組みの具体的な方法)

(1) 症状に対する適切な投薬をします。心因性だから薬はないなどと決め付けないようにして、各症状に対して鎮痛剤や整腸剤などの投与をおこないます。但し効果がないからと投与量をむやみに増やすことは避けましょう。

(2) 身体症状について正しい理解をしてもらう。児、家族ともに身体症状が起こるメカニズムとしての心身相関の説明を行います。心身相関とは、「心理的なストレスが身体症状を悪化させ,悪化した身体症状のために生活の質が低下する結果,それがまた心理的なストレスになる」という悪循環のことです。これを親子が充分に理解することにより身体症状に対する適切な対処方法がとれるようになります。

(3) 身体の安定を目的に「生活リズムを維持すること」,「食事を家族で食べること」,「雑談やお手伝いを通じて会話を増やすこと」などを提案していきましょう。心理的な問題があるからこそ,まず身体の安定を図るという視点が大切です。

このような身体症状への取り組みにより登校の問題のみに執着しがちな親子が新たな共通の目標を持つので,親子関係が改善するなど良い効果を生みます。この取り組みのみで症状が軽快して、登校が可能になる場合もあります。

2)経過観察

定期的に経過を追っていく。検査などで問題がないから、またはすることがないからと受診を打ち切るようなことはしないようにしましょう。打ち切ると児は見捨てられた感じをもつことが多いようです。

(経過観察のポイント)

(1) 学校でのトラブルや家庭内の問題については、問診で表面化することがあるが当面、聞くだけにとどめましょう。その問題が不登校の主体であると安易に決め付けないようにします。きっかけや悪化因子としては重要ですが、そのことが主体である可能性は低いようです。また原因を追求しすぎて犯人探しになってしまう可能性が高く、そのことは不登校の治療としては役に立ちません。治療の経過の中で少しずつ話し合うつもりで、また必要あれば家族だけでなく学校やその他の人から話を聞きましょう。

(2) 2週間に1回の定期受診を基本とする。状態に応じて1週間に1回、初診時からの時間が経過し、状態が安定しているときには1ヶ月に1回程度とします。

3)専門機関との連携

経過のなかで以下のような場合には専門機関との連携が必要になります。専門機関への紹介は治療者の一方的な判断ではなく、家族によく説明をして、話し合いながら行います。またすぐに手放すのではなく一緒に診ていく姿勢が大切です。

(1) 発達障害:極端な成績不良は軽度精神遅滞や学習障害の存在を、また、学校でのトラブルの多さは、注意欠陥/多動性障害や広汎性発達障害(自閉傾向)の存在を疑います。発達障害の可能性についてもさりげなく説明し、親にも「実は気になっている‥」という認識があるようなら、知能検査などの諸検査をおこない、専門の施設を紹介しましょう。

(2) 統合失調症などの精神科疾患:幻覚、妄想、あるいは何となく疎通性が悪いなど、統合失調症の疑いがある場合には、精神科での治療が必要であることを伝え、受診をすすめます。強い不安や抑うつ状態、混乱がある場合には「当面、小児科での対応も可能ですが、精神科への紹介が必要になる場合もあります」と、あらかじめ伝えておきます。リストカットなど自傷行為を繰り返す場合も同様です。

付録1.初診時の身体症状に関する問診票

  • 氏名:○○
  • 記入年月日: 平成○○○○○○
  • 年齢: ○○
  • 性別: 男・女
よくある たまに ない
A 1 「疲れた」と感じる
B 2 風邪をひきやすい
3 夏でも手足が冷える
4 頭が痛い(または)重く感じる
C 5 乗り物に酔う
6 長く立っていると気を失って倒れる
7 めまいがする
8 寝つきが悪い
9 夜中に目が覚める
10 朝、起きづらい
11 肩や首筋が凝っている
12 背中や腰が痛くなる
13 腕や足が痛い(または)だるく感じる
14 物がぼやけて見える
15 耳の中で何か音の響く感じがする
16 人前に出ると、すぐ顔が赤くなる
17 緊張するとひどく汗をかく(または)手がふるえる
18 胸が痛い(または)締めつけられる感じがする
D 19 胸がひどくドキドキする
20 鼻が詰まる(または)鼻水が出る
E 21 咳が出る
22 ゼイゼイして息苦しい
23 あまり食欲がない
F 24 ムカムカする(または)嘔吐する
25 胃のあたりが痛く、気分が悪い
26 便秘気味
27 下痢をする
28 おならが出る
29 お腹が痛くなる
30 オシッコに行く回数が人と比べて多い
G 31 昼間でもオシッコをもらす
32 おねしょをする
33 身体がかゆい
34 顔や身体、手足にブツブツができる
35 冬でも汗をかく
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