不眠症・過眠症

1. 概要

 不眠症(Insomnia)や過眠症(Hypersomnolence)はAmerican Academy of Sleep Medicineが定めた国際的な基準である睡眠障害国際分類第3版(International Classification of Sleep Disorders : ICSD-3rd)で定義されます。

 

2. 特徴

 不眠症は、寝る機会や環境は適切であるにもかかわらず、睡眠の開始、持続、安定性あるいは質に持続的な障害があるため、結果的に何らかの日常的な支障が生じることで特徴付けられます。

 過眠症は、ICSDでは中枢性過眠症群強い日中の眠気と日常生活の支障が夜間の睡眠や概日リズムの問題で生じておらず、他の睡眠障害にも合併することがあるため、その治療を受けていても生じる場合に鑑別を必要とします。また、原因は多岐にわたります。筆頭はナルコレプシーですが、有病率を考慮すると小児心身症領域では精神疾患に関連する過眠症や睡眠不足症候群が馴染み深い過眠症と言えます。

 

3. 定義

 不眠症はICSDにより診断基準が定められ、短期睡眠障害と慢性睡眠障害、その他と大別されます。慢性睡眠障害の診断基準を例に図1へ示していますので参照してください。特徴としては、睡眠衛生が適切にもかかわらず、睡眠に関する症上とその結果生じた症状があり少なくとも週3回以上症状があり、慢性(3ヶ月以上)や短期に症状が存在する病態を指します。また、他の睡眠障害でよく説明できないことも条件です。


 過眠症は、先述の通りナルコレプシーを筆頭にさまざまな原因で生じる病態です。図1に例として、睡眠不足症候群をお示ししています。過眠症はナルコレプシー(タイプ1/2)、特発性過眠症、クライネ-レビン症候群、身体疾患による過眠症、薬物または物質による過眠症、精神疾患に関連する過眠症、睡眠不足症候群に分類されます。正常範囲の異型として、長時間睡眠者という分類もあったりします。背景に原因疾患が隠れていることがあるので、要因の検索には十分に注意が必要です。


4. 治療と対応
 一般小児外来では、問診で得られた心理社会的な情報と合わせて、甲状腺機能障害、ニーマンピック病C型などの中枢神経性遺伝病、代謝性脳症など睡眠に影響を及ぼす身体的疾患や抑うつなどの精神疾患も背景疾患として注意しながら治療を組み立てることが望まれます。

 すぐには内服治療を行わないことが容易に想像されるように、まず睡眠環境・衛生を確認しながら柔軟に生活指導行います。そのためには生活リズムや家族の構造・習慣を中心とした社会的な背景を把握・考慮するために、睡眠日誌や問診票・質問紙を積極的に利用することが望まれます。図2のように詳細な問診が望まれますが、診療時間の制限を考慮すると睡眠の状態を把握する時には以下の4つに焦点を絞って尋ねると効果的です。

1)睡眠の量          (総睡眠時間、寝入る時間)
2)睡眠の質          (中途覚醒の有無や悪夢など)
3)位相                  (昼夜逆転などのタイミングの問題、就寝・起床時間)
4)症状                  (日中の眠気や集中力の低下、頭痛など)

 また、質問紙も効果的に睡眠障害をスクリーニングするために有効です。日本では子どもの眠りの質問票や日本語版子どもの睡眠習慣質問票(The Japanese version of Children’s Sleep Habits Questionnaire : CSHQ-J)が利用可能です。CSHQ-Jは4歳から10歳までの睡眠障害を48点のカットオフ値(感度: 0.69, 特異度: 0.79)でスクリーニングできます。現在(2023年12月)、子どもの眠りの質問票はインターネットから参照可能となっております。

 生活指導はとても重要ですが、時に家族や本人に緊張感を与えることがあります。そのため、柔和かつ明確に課題を伝え、苦しんでいる中で努力をしている児童の健康的な側面に焦点を当てて、医療者として権威的な姿勢ではなく、相互に個人を尊重した建設的な関わりを本人・家族と持ちましょう。心理社会的な支援が本人の心理的な負担を軽減するためにも重要で、場合によっては学校連携(日中の眠気に対しての酌量)などを積極的に取り組むことも有効です。

 このような生活指導が基盤にあることを前提に、軽快が得られず本人・家族の意思と同意を元に薬物療法は慎重に検討します。さらに、心理社会的要因を評価し精神症状が強い場合や心理的治療を要すると判断した場合には、小児心身や児童精神の専門医と連携します.

 過眠症については、診断に反復睡眠潜時(Multiple Sleep Latency Test : MSLT)やポリソムノグラフィー、アクチグラムといったより専門性の高い検査が必要となる場合があるため、専門の医療機関へ紹介することも視野に入れましょう。日本睡眠学会専門医の在籍する施設へのお問い合わせをご検討ください。

 

図1) 不眠症/過眠症の診断基準例 (ICSD-3rd抜粋)

慢性不眠症(A〜Fを満たすもの)

A.以下の症状の1つ以上を患者が訴えるか, 親や介護者が観察する.

  1. 入眠困難.
  2. 睡眠維持困難.
  3. 早朝覚醒.
  4. 適切な時間に就床することを拒む (ぐずる).
  5. 親や介護者がいないと眠れない.

B.夜間の睡眠困難に関連した以下の症状の1つ以上を患者が訴えるか、親や介護者が観察する.

  1. 疲労または倦怠感.
  2. 注意力、集中力 記憶力の低下.
  3. 社会生活上, 家庭生活上, 職業生活上の機能障害, または学業成績の低下.
  4. 気分がすぐれない、いらいら.
  5. 日中の眠気.
  6. 行動の問題 (例: 過活動, 衝動性, 攻撃性).
  7. やる気 気力 自発性の低下.
  8. 過失や事故を起こしやすい.
  9. 眠ることについて心配し、不満を抱いている.

C.眠る機会 (睡眠に割り当てられた十分な時間) や環境 (安全性, 照度, 静寂性、快適性)切であるにもかかわらず,上述の睡眠・覚醒に関する症状を訴える.

D.睡眠障害とそれに関連した日中の症状は,少なくとも週に3回は生じる.

E.睡眠障害とそれに関連した日中の症状は,少なくとも3カ月間認められる?

F.睡眠・覚醒困難は, その他の睡眠障害ではよく説明できない.

 

中枢性過眠症群:睡眠不足症候群(A〜Fを満たすもの)

A.耐えがたい睡眠要求や日中に眠り込んでしまうことが毎日ある。 思春期前の小児では, 眠気の結果として生じる行動異常を訴える。

B.本人もしくは親族から得られる睡眠履歴, 睡眠日誌あるいはアクチグラフ検査によって確かめられた患者の睡眠時間が、その年齢相応の標準値よりも通常短い。

C.短縮された睡眠パターンは、少なくとも3カ月間、ほとんど毎日認められる.

D.患者は目覚まし時計や他人に起こされるといった手段で睡眠時間を短くしており、週末や休暇中など こうした手段を使わないと. ほとんどの場合より長く眠る.

E.総睡眠時間を延長させると, 眠気の症状が解消する.

F.本疾患の症状は、他の未治療の睡眠障害, 薬物または物質の影響, その他の身体疾患, 神経疾, 精神疾患ではよく説明できない.

 

図2) 睡眠障害を疑った場合の詳細な問診項目

1. 睡眠に関する問題を把握する問診

(1) 主たる症状 (多くの場合は主訴)について詳しく聞く

・開始 (いつから)

・内容 (どのような)

・経過 (どのように変化してきたか)

・時間帯 (1日のうちのどの時間に) 、持続時間 (どのくらい続くのか)

・頻度

(2) (1) 以外の睡眠中の症状、日中の症状を確認する

(3) 睡眠のパラメーター(量、質、時間帯)に関する情報を収集し適切な睡眠を時間や生活リズムを確保できているかを

評価する

・夜間睡眠の時間帯 (就寝時刻、起床時刻) 睡眠時間

・夜間覚醒の有無と時間帯、 再入眠までに要する時間

・入眠潜時 (入床時刻から入眠するまでに要する時間)

・午睡(昼寝)の回数、時間帯と時間

・日ごとの変動 (平日/休日, 行事のある日/ない日)

・睡眠・覚醒リズム表, 睡眠日誌を活用する

2. 睡眠の問題の原因になっているかを推定する問診

(1) すでに診断されている疾患 (睡眠疾患, 身体疾患, 精神疾患など) の有無を確認する

・基礎疾患, 現在の通院と治療

・出生歴 既往歴 発達歴, 家族歴を確認する

・可能性がある鑑別疾患 (複数) に関する症状の有無を確認する

(2) 日常の行動、習慣や信念、環境などが睡眠に影響しているかどうかを把握する

・生活リズム(1日の生活パターン, 夜の過ごし方, 日中の身体活動など)

・室内環境 (夜の光 音 温度 朝の光など)

・人間関係(家族、友人など)

・社会環境 (通学時間 部活動 習いごとなど)

・電子メディアの利用状況 (インターネット, ゲーム, スマートフォン、テレビ・ビデオ、音楽メディアなど)

(久留米大学医学部医学科小児科学講座 石井 隆大)

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