回避・制限性食物摂取症

1. 概要・定義

 回避・制限性食物摂取症はアメリカ精神医学会の定める食行動症と摂食症群の一つです。(図1)体重増加不良や体重減少を認めますが神経性やせ症と異なり、やせ願望や体重増加への恐怖は認めません。食物への関心が無い、食物が口に入った感覚やにおいが嫌で食べられない、食後の悪心や嘔吐、窒息への恐怖、不安が強く食べられないような状態です。摂取困難な状況や小食の様子から、①食物回避性情緒障害、②選択的摂食、③制限摂食、④食物拒否、⑤機能的嚥下障害、⑥広汎性拒絶症候群、⑦うつ状態による食欲低下、と詳細に分類したものもあります(GOS Criteria)。近年増加傾向にあるといわれておりますが、有病率は報告によって様々です。神経性やせ症と比較すると男児や低年齢の発症が多い傾向にあります。

2. 症状

①食物回避性情緒障害:不安や抑うつを抱え、つらさを言葉で表すことができずに食欲が低下します。

②選択的摂食:食べられるものが限定的で、食べたことのない食物を摂取しようとしません。

③制限摂食:年齢相応より摂取量が少ない状態です。

④食物拒否:一時的、断続的、場面依存的に摂取を拒否します。例えば保育園では絶対に食べないような状態です。

⑤機能的嚥下障害:呑み込むことがこわい、のどに詰まるのではないか、嘔吐してしまうのではないかなどの強い恐怖や不安によって食べられないような状態です。

⑥広汎性拒絶症候群:食べることだけではなく、飲む、歩く、話すなど強く拒否する状態です。

⑦うつ状態による食欲低下:抑うつ状態から食事が摂取できない状態です。

 ①~⑦とも体重・体型に対するゆがんだ認知がなく、体重・体型への激しい没頭がないことで神経性やせ症と区別されます。身体症状として、低栄養の程度により伴う様々な合併症を生じることがあります。元気がない、イライラしている、顔色が悪い、手足が冷たいなどがあります。便秘や皮膚の乾燥、不眠など生じることもあります。脈が遅くなったり(徐脈)、血圧も低下します(低血圧)。低栄養の状態が長期に続いた場合には低身長や骨粗鬆症、妊孕性への影響が懸念されます。

3. 診断

 食事が食べられなくなった時の状況を確認します。胃腸炎になった、友達が嘔吐しているのを見た、大事な人との死別やいじめ、クラス替えや担任の先生の交替、転校、虐待などがきっかけになっていることがあります。幼少期からの体重身長の変化(成長曲線)も参考になります。実際に食べられなくなる前から体重増加不良が続いていることもよくあります。体重減少の程度が強い場合や、見逃してはいけない体重減少を来す他の疾患を鑑別するために、全身の様々な検査(血液検査、レントゲン検査、超音波検査、心電図、頭部MRI、骨密度等)が必要になる時もあります。

4. 対策・治療

 まずは少量でも食べられるもの、食べやすいものを摂取することを始めます。食べられるものが、チョコレートやアイスクリームといった甘いものだけになったり、牛乳しか飲めないなどあるかもしれません。楽しい食事環境はとても大切です。怒ったり、注意したりせず、「食べにくいけど頑張って食べようとしている」とお子さんの頑張りを信じ、少量でも摂取できていること、日常生活の中で頑張っていることなどたくさんほめてあげてください。不安が強いときにはリラックスできる環境を作ることも必要です。お子さんが安心できる環境について、園や学校の先生と相談できると良いでしょう。胃の症状に対して胃薬や漢方が処方される事もあります。不安や落ち込みが強い時には抗うつ剤、抗不安薬などが必要になることもあります。万が一摂取困難な状況が続き体重減少が進行する場合には活動制限や入院が必要となることもあります。時には経管栄養(鼻から胃に直接細い管を入れて栄養剤を注入すること)で栄養状態を回復させることもあります。

5. 併存症

 自閉スペクトラム症、不安症、抑うつ状態などの併存が指摘されています。

6. 予後

 摂取困難な状況は徐々に回復しますが、回復したように見えても何かをきっかけに繰り返えすこともあります。また、自閉スペクトラム症など神経発達症の特性が強い場合、あるいは、環境調整がうまくいかない場合には摂取困難な状況が続くこともあります。

 

(国立病院機構三重病院小児科 鈴木 由紀)

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