慢性疼痛

1.概要

 複合性局所性疼痛症候群(complex regional pain syndrome:CRPS)は難治性の慢性疼痛を来す疾患の一つですが、まだまだ疫学、病因・病態、そして治療などに関して不明な点も多いものです。そうした中、特に小児においては、心理社会的な因子の関与も大きいとされる背景から、本疾患を心理社会的なモデルで理解して包括的な治療を考慮していくことが必要となります。

2.病態・症状

 CRPSは、実際に生じた外傷などの契機や経過にそぐわないような、自発もしくは誘発性の慢性経過の末梢性の強い痛みを呈する疾患であり、特徴的な症状として感覚異常(自発痛、アロデニア、痛覚過敏など)、および自律神経に関連する症状と考えられている症状(浮腫、発汗異常、皮膚音の異常など)などが主体となります。CRPSの病態は現在まで複合的な病態が想定されていますが、大きな捉え方として、末梢神経の変化に中枢神経系の機能変化および自律神経系の機能異常を合併した病態です。特に末梢性の脱感作と中枢性の脱感作および交感神経異常、炎症、免疫的な異常などが様々な形で併存した病態と理解されています。末梢性脱感作では、受容野の刺激に対する末梢侵害受容ニューロンの亢進した反応性および通常閾値以下の入力に反応する状態、また中枢性脱感作では、正常あるいは閾値以下の求心入力に対して示す中枢神経系の傷害受容ニューロンの反応性が亢進した状態となります。

3.治療と予後

 CRPSにおいては、その効果の有効性が十分に示されたエビデンスのあるものはなありません。CRSでの医療者が与える治療は,あくまでも患者自身の自己管理方法を高める補助とし,機能障害に対する治療を主幹とすることが共通認識となっているとされています。
 具体的にはとりわけ、痛みはゼロにするという方向性ではなく、痛みがありながら日常生活を送ることを目標とすることになります。また小児においては、保護者を理解、サポートを得ながらの治療の枠組み作りが重要となります。また個別性に配慮して、各ケースでの病重症度などを評価しながら、治療効果の評価などを行っていくことが必要です。また本疾患では薬物療法そのほかの治療においても、エビデンスがあるものはないと言えますが、運動療法、リハビリテーション、多職種(麻酔科医、心理士、看護士などを含む)の集学的(multidisciplinary)検討を実施するが望ましいとされています。

 

参考文献

1)Stephen Bruehl.Complex regional pain syndorm1:BMJ 350:h2730 ,2015.doi: 10.1136/bmj.h2730
2)Weissmann and Yosef Uziel. Pediatric complex regional pain syndrome: a review. Pediatric Rheumatology 14:29 ,2016DOI 10.1186/s12969-016-0090
3)牛田亨宏、河合隆志、池本竜則、その他:CRPS診療の現況と進歩.CRPS病態の解明 最新の進歩Peripheral Nerve25,5-12,2014
4)Weissmann and Yosef Uziel. Pediatric complex regional pain syndrome: a review. Pediatric Rheumatology 14:29 ,2016DOI 10.1186/s12969-016-0090

 

国立成育医療研究センター総合診療科 永井 章)

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