概日リズム睡眠・覚醒障害

1. 概要・定義

 概日リズム睡眠・覚醒障害は睡眠障害国際分類(ICSD-3)の病名であり、睡眠相後退症候群(ICD-11)、概日リズム睡眠覚醒障害群の睡眠相後退型(DSM-5)と同義です。概日リズム睡眠・覚醒障害とは、体内時計のリズムが地球の自転(明暗)周期に同調しなくなり、望ましいタイミングでの寝起きが難しくなった状態(病気)のことです。同調障害の種類により、睡眠・覚醒相後退障害(DSWPD)、睡眠・覚醒相前進障害(ASWPD)、不規則睡眠・覚醒リズム障害(ISWRD)、非24時間睡眠・覚醒リズム障害(Non-24)などがありますが、小児・思春期では不登校の原因にも、結果にもなることで問題として扱われやすいです。

 

2. 症状

 睡眠・覚醒相後退障害(DSWPD)は、極端な遅寝遅起きが固定化された状態です。就寝したいと思っても寝つけず、夜更かしのため望ましい時刻に起きられません。小児・思春期では長期休暇明けに出現することが多いですが、無理して起きること(脱同調)により心身の不調が生じ、さらなる悪循環が生まれることもあるため注意が必要です。睡眠・覚醒相前進障害(ASWPD)は逆に、極端な早寝早起きを特徴とします。夕方から眠気が生じ、早い時刻での就寝により望ましい起床時刻よりもかなり早く目が覚めてしまいます。床上で数時間過ごしたのちに二度寝をすることで、結果的に望ましい時刻に起床出来なくなることもあるため、起きられない子どもや、過眠を疑われる子どもの中に、睡眠・覚醒相前進障害(ASWPD)が紛れ込んでいることもあります。不規則睡眠・覚醒リズム障害(ISWRD)は1日のなかで睡眠と覚醒が不規則に現れることが特徴です。続けて眠ることが出来なくなり、日中に昼寝を必要とします。一部の遺伝疾患に合併するほか、子どもでは神経発達症に併存することがあります。非24時間睡眠・覚醒リズム障害(Non-24)は、毎日30分から1時間程度、睡眠・覚醒リズムが後退していくのが特徴です。本来、体内時計の周期は24時間よりわずかに長い程度ですが、同調因子(主に朝の太陽光)による体内時計のズレの調整が、なんらかの原因によりうまく機能しないために生じます。小児・思春期では、太陽光をはじめとした様々な同調因子を失いやすい不登校の初期に多く認められます。

 

3. 診断法

 睡眠・覚醒リズムが日によって多少ずれることは誰にでもあることです。眠りたい、起きたいという強い意志があり、そのために必要な睡眠衛生が整っているにも関わらず、それが困難なために社会的な不利益を被っている場合、病的な状態と考えられます。小児・思春期の臨床で難しいのは、眠りたい、起きたいという気持ちはたしかに存在するけど、眠りたくない(眠るのがもったいない)、起きたくない(起きられなくてもいい)という気持ちもまた同時に存在する(両価的)にも関わらず、社会通念への規範意識の中で「本当に起きたいのに何故か起きられない」と子ども自身が信じていることがある点です。小児・思春期の医療においては、そのような特徴を踏まえつつ、必要に応じて詳細な問診、睡眠日誌などを用いて診断します。

 

4. 治療・対策

 誤った知識による独自の取り組み、睡眠衛生の悪さを認める場合、それらの是正を行います。そのためには、はじめに正しい知識が必要となりますが、その対象は子どもだけでなく保護者も含まれます。多くの保護者は就寝直前のスマホ・ゲーム機器の使用過多が入眠に悪影響であることを確信しており、そのことを医療者から子どもへ伝えることを望みますが、一方で塾や習い事による睡眠への悪影響は目をつぶる傾向があります。多少の睡眠衛生の悪さがあろうとも、就寝・起床に大きな問題がなく、望む社会生活をこなせているのであれば、それらを取り立て騒ぐ必要はないかもしれませんが、すくなくとも病院受診に至るほど困っている状況なのであれば、「えらい行動」と「身体に良い行動」を分けて整理する必要があります。また、正しい知識はあるけど実行できない場合、傷つき体験などにより実行に至るだけの心のエネルギーが溜まっていないフェーズなのではないか、時間感覚の乏しさや優先順位づけ・取捨選択の困難さなど、認知・発達特性などの課題があるのではないかなど、背景因子に目を向ける必要があるかもしれません。子ども自身で睡眠日誌をつけ、治療者と協働的に取り組むことは、これらの過程を円滑に進め、多くの情報が提供されます。子どもたち個々の真の課題が整理・明確化され、身体・心理・社会的に妥当な目標が共有された上で、概日リズムを是正すべきタイミングが来たとき、光療法やメラトニン関連薬は有益な一手となり得ます。

 

(東京医科大学小児科・思春期科学分野 呉 宗憲)

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