機能性高体温症(心因性発熱)

1.概要・定義

 その人の日常的な正常値を超えた体温上昇を発熱といいます。発熱は様々な身体の病気で発生するので、原因不明の場合は詳しい検査が行われます。一般的には、風邪などの感染症や膠原病のような炎症性疾患が発熱の原因となります。これとは別に、何らかの原因で脳の視床下部などの体温調節機構が不調をきたしたことにより体温が高い状態となっていることもあります。これは厳密には発熱ではないため「高体温」いわれます。熱中症や甲状腺の病気などが「高体温」の原因となりますが、心理社会的ストレスも原因となることがあります。心理社会的ストレスの影響で体温調節機構が不調をきたし体温が高い状態となっているものを機能性高体温症(心因性発熱)と呼びます。(医学的には高体温ですが、一般に理解しやすい「発熱」を使って説明します)

 

2.症状

 発熱では、体温上昇以外に咳や関節痛など何らかの症状を認めます。高体温以外に症状や炎症所見がなく、特定の状況や誘因で体温の上昇を認める場合に機能性高体温症の可能性を考えます。小児の機能性高体温症では体温が40℃ 以上の高温になることがあるなど、成人と異なった特徴があります。また、子ども自身が心理社会的ストレスに自覚のない場合や発達途上でうまく言語化できない場合があり、心因がはっきりしないこともあります。

 

3.診断法

 診断は、まず発熱の原因となるその他の病気や、詐熱(自らが作り出そうとする熱で詐病の一種)がないか確認します。さらに解熱薬を投与し、投与時と非投与時の熱型を比較して差がなければ、炎症が原因ではない高体温であるため機能性高体温症を考えます。発症前3~6ヵ月間にストレスとなり得る心理社会的要因(家庭、職場、学校での葛藤、過重労働)があれば積極的に機能性高体温症を考えます。また、入院などストレス因から避難できる状況で体温が下がれば、診断はさらに確実となります。

 

4.治療・対策

 治療は、生活指導、疾病教育、環境調整が主になります。自律神経が整うように規則正しい生活を心がける、十分な睡眠や休息をとる、バランスの良い食事を摂る、適度に運動するなどが必要です。屋外で汗をかく程度の運動をすることで体温調節機能は発達するため、軽度の発熱時に安静にしすぎることは好ましくありません。また電子機器の使用が長時間になると自律神経の失調が起こりやすいため、夜間のパソコンやスマートフォンの使用はできるだけ避けます。

 疾病教育では、「通常の検査で異常がなくても発熱することがある、風邪などの発熱とは異なり発熱以外の症状は少ないが仮病ではない、発熱自体が疲労の原因となるので過労に注意する」などを子どもに伝えます。子どもは「自分の熱はいつまで続くのだろうか」「良くならないのではないか」など発熱への不安からさらに症状が悪化することがあります。これを防ぐために、子どもや家族に機能性高体温症について知ってもらうことが役立ちます。

 環境調整のためには観察が大切です。発熱のタイミングやその後の経過を観察し、子どもにとって負担の大きい環境になっていないかを考えます。長期休みなどで解熱する場合は、学校生活について見直しを行います。

 

5.合併症・併存症

 併存症として神経発達症の併存を認めることがあります。発達特性と学校環境のミスマッチを知るために、発達特性の評価を行い、その後特性への環境調整を行うことが有効です。特に自閉スペクトラム症の特性がある場合は、感覚過敏や暗黙の了解がわからないなどのコミュニケーションのずれやすさなどのために集団生活が負担となることに気を付けて、別室登校や特別支援学級、適応指導教室の利用などを検討します。

 また、起立性調節障害との併存も報告されています。自律神経系の調節障害という点が共通しています。

 

  • 体温:視床下部で調整されていて、早朝に低く夕方に高くなる日内変動があります。1日で約1℃の変動があります。
  • 発熱:正常な日内変動の範囲を超えて上昇することです。一般に37.5℃以上とされています。
  • 高体温:体温の調節が上手くできないために体温が上昇することです。

 

(岡山大学病院 ダイバーシティ推進センター,小児医療センター 小児科/小児心身医療科 藤井智香子)

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