うつ、不安に関連するもの(場面緘黙、分離・社交不安症、PTSDなど)

  • 場面緘黙症

精神科診断学では選択性緘黙と言われ、社交不安症と密接に関連していると考えられています。学校や幼稚園など、1つ以上の特定の社交場面でまったく話さないか、頷くことや囁くようには話せることもあります。自分が話すことを聞かれたり見られたりすることに不安を感じ、話さないでいるとその不安を回避できるので、話さない行動が定着すると考えられています。しばしば5歳未満で発症し、社交不安に加えて会話と言語の問題を有しています。緊張や不安などのストレスを感じない場面では流暢に話していても、人の気持ちや考えを理解することが難しかったり、年齢相応と比較して能力の低さを認めていたりなど、背景に自閉スペクトラム症、学習障害、知的発達症の併存が認められることもあります。幼少期のトラウマや小児期逆境体験により緘黙となっていることもあるため、生育歴や家族歴の聴取は鑑別のため重要です。追跡調査では約半数が5〜10年以内に改善し、その間に改善しなかった子どもは慢性の経過を辿るという報告があります。
治療として幼稚園・学校などで子どもが安心できるように環境調整することが必須となります。教諭が関わりを増やして子どもの気持ちを察してあげることや、同級生への理解を促して本人が疎外感を持たないようにできると登園・登校は維持されることも多くあります。

 

  • 分離不安症・全般不安症・社交不安症

上記3つの疾患は併存しやすいため、まとめて評価されることが多いです。いずれか一つを認める際にもう一つの合併率は60%、すべて併存するのは30%といわれています。

分離不安症
1歳未満の子どもが母親など主たる養育者から離れる際に泣き喚いて抵抗することは発達段階として認められます。正常な分離不安のピークは9〜18ヶ月くらいで、2歳半頃には消失することが多いです。子どもが初めて登校するときに一過性の分離不安を示すことも正常範囲です。分離不安症では発達的に不適切で過剰な不安が愛着対象者との分離の際に認められれば診断されます。愛着対象者と離れて自分が事故に遭うかもしれない、または母親が病気になるかもしれないなどの強い不安を抱えており、こうした状況が4週間以上継続します。

全般不安症
学業や人との交流など、さまざまな場面で失敗するのではないかと恐れており、日常生活で支障をきたしています。落ち着きのなさ、疲労しやすさ、心が空白になること、易怒性、筋肉の緊張、睡眠障害などのうち1つがあり、複数の場面で恐怖を感じやすくなります。頻脈、息切れ、眩暈など自律神経系の過覚醒症状を経験することもあり、異常な発汗、嘔気、下痢などを認めることもあります。しばしば物事の出来不出来について過剰な安心と保証を求めます。

社交不安症
他人の注目を集めたり、恥をかいたりすることを極度に恐れて、強い不快感と苦痛を経験する子どもにおいて診断されます。社交場面で泣いたり、かんしゃくを起こしたり、活動を回避したり、完全に口を閉ざしたりすることがあります。不安が惹起されないように社交場面を避けることや、現実の場面と釣り合わない不安が6ヶ月以上続きます。

 

  • PTSD

死に瀕する恐怖、重傷を負う、性的暴力を受ける出来事を直接経験するか直に目撃した後に、侵入症状(フラッシュバック、悪夢など)、持続的回避・認知の陰性変化(思い出さないように事件の場所に近づかない、人と会おうとしない、恐怖・恥など陰性情動の増加、感情表出の減少など)、過覚醒症状(過度の攻撃性・警戒心、集中困難など)が1ヶ月以上続いている状態の時に診断されます。発達的退行を示して会話や歩行が困難となったり、夜尿・日中のお漏らしが増えたり、分離不安が強くなったりすることも少なくありません。幼少児ではトラウマ遊び(交通事故に遭った児がミニカーをぶつけて遊ぶなど)という強迫的な遊びが見られることもあります。
心的外傷体験として親または養育者に起こった出来事の伝聞は含まれ、テレビや映像で見た出来事の視聴は含まれないとされています。近年、子どもの社会で問題となっている学校やSNS・ネットでのいじめなど言葉の暴力によりPTSD三症状をきたすことがあり、診療場面における臨床的対応の機会は増加しています。
PTSD発症率は戦時国からの亡命児67%、交通事故2530%などが知られており、DVなど暴行目撃や性的虐待の場合も発症率は高いとされています。
トラウマ性ストレスにより青斑核など交感神経系が賦活して過覚醒状態となり、闘争逃走反応を引き起こす。子どもが安心できない生活環境では、不安によりさらに交感神経系の過剰をきたし、フラッシュバックと解離が重積しやすくなります。そのため一般の子どもの環境においてもトラウマインフォームドケア(TIC)の考え方に基づき、トラウマ体験に十分配慮した環境調整と安定的で安心できる大人の関わりが不可欠となります。

(浜松市子どものこころの診療所 精神科 山崎 知克)

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