ひきこもり

1.概要

「ひきこもり」は「6か月以上社会活動に参加しないことが続き、対人接触のない状態1」のことです。厚生労働省の「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」では「様々な要因の結果として社会的参加(義務教育を含む就学,非常勤職を含む就労,家庭外での交遊など)を回避し,原則的には 6 ヵ月以上にわたって概ね家庭にとどまり続けている状態(他者と交わらない形での外出をしていてもよい)を指す現象概念である。」 2と定義されています。「状態」であって「病態」ではないことに留意する必要があります。

子どもに関わる視点で考えると、たとえば「不登校」が何らかの理由で長期化するとその一部は学籍を失って二十代に至っても在宅の状態で過ごすことになり、この一部(もしくは大部分)が社会とのつながりを持たないまま「ひきこもり状態」に至る3と考えられます。ひきこもり事例の多くは不登校を経験しているという報告がある一方で、不登校全体からみて「社会的ひきこもり」状態にまで至る事例はそれほど多くない3とされており、不登校をことさら問題視しすぎたり、心配しすぎたりする必要はないといってもいいでしょう。ただし、社会的ひきこもりは思春期からの問題を引きずることが特徴であり、不登校の子どもがある程度の社会的な成熟を経ていくための支援や、社会とのつながり(家庭以外の居場所)を持つことができるようにするための支援は重要であると考えられます。

2.統計

内閣府のアンケート調査(202211月)によると15歳から39歳の2.05%、40歳から64歳の2.02%が広義のひきこもり群でした4。その結果から2022年時点の「ひきこもり」はおよそ146万人と推計されています。男女比は15歳から39歳では男性53.5%、女性45.1%、40歳から64歳では男性47.7%、女性52.3%でした4

3.対応の例

ひきこもりに対しては、厚生労働省から「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」2や「ひきこもり状態にある方やその家族に対する支援のヒント集」5が出ています。また、厚生労働省は動画などで当事者や親、支援者など様々な立場からの声を動画で紹介するひきこもり支援ポータルサイト「ひきこもりVOICE STATION6を公開しています。

「本人は“生きるため”にひきこもり状態にならざるを得ない。いつか元気になって、自分もできることをしたい、働きたい、活躍したいなどひきこもっている間、悩み、考え、苦しんでいる」とガイドライン2では説明されており、「社会参加をしていない子どもや青年がすべて社会的支援や治療を必要としているわけではない」ということを理解しておく必要があります2

ただし「ひきこもり」の人を対象とした調査によると、精神医学的には神経発達症(発達障害)、対人恐怖(社交不安)、強迫症状、睡眠の問題(不眠と昼夜逆転)、不安障害、パーソナリティ障害、うつ病を主とした気分障害などの精神疾患の診断が可能なケースも多いことが分かってきています137。さらに家庭内暴力や、ひきこもりの長期化によって生じる「八○五○問題:八十代の親が五十代の子を養わざるを得ず、生活が困窮していく問題」8など社会全体で対応すべき問題も含みます。

斎藤環先生は「ひきこもり」当事者のニーズは多様であり、「支援を求めないひきこもり」、「支援を求めるひきこもり」、「いまは支援を必要としていないが、潜在的に支援ニーズを抱えたひきこもり」、「本人は必要としていないが親が支援を求めているひきこもり」、など様々な人がいることを鑑み、「ニーズがないひきこもり」に対しても支援者は機会あるごとにアプローチを試み、チャンスがあればニーズを尋ね、断られればまた次の機会をうかがうといった「マイルドなお節介」という支援の在り方について言及されています3

「ひきこもり状態にある方やその家族に対する支援のヒント」として厚生労働省は以下の4点をあげています4

(1)本人を中心にした支援、伴走型支援:

・待つこと、本人が決定すること

・安心、安全(本人を脅かさない)であること

・本人や家族の話を聞き、当事者の思いを大切にしていること。支援者の思いで動くことがないように気をつけること

・本人に合った関わり方をオーダーメイドで考えること

・本人が興味関心のあることやしてみたい事を大切にし、外出や食事など可能な限り本人と行うこと

・その人にあった目標を考えること

(2)支援者のエンパワメント、職場内サポートなど

(3)家族へのアプローチに重点を置いた支援

4)ピアサポーターの活用

実際の支援策としては、生活困窮者自立支援制度の活用や「ひきこもり地域支援センター」等との連携、地域活動への参加とそのための地域資源の活用(社会的処方)、就労支援等があげられます。これらの実現のためには、「ひきこもり」の本人・家族と、多職種の支援者とが出会う必要があるため、ソーシャルワークの視点が重要です。

社会学者の石川良子先生は「ひきこもりをどうすれば解決できるのかを探るだけでは不十分です。なぜなら、最終的に目指すべきは「ひきこもり」が問題にならない社会であると考えているからです。百万を超えると推計されるほどに多くの人々をひきこもらせているのは、「「ひきこもり」とは解決しなければならない問題である」、もっと言えば「「ひきこもり」とはあってはならない悪しきものだ」というまなざしにほかなりません」8と述べています。

実際のひきこもりの対応は、当事者11人で異なり、オーダーメイドの対応が必要になり、容易ではありません。詳しく知りたい方は以下の文献やサイトを参考にしていただければ幸いです。

 

参考文献

1)井上勝夫:テキストブック児童精神医学.p137139. 東京:日本評論社.2014

2)厚生労働科学研究費補助金こころの健康科学研究事業 「思春期のひきこもりをもたらす精神科疾患の実態把握と 精神医学的治療・援助システムの構築に関する研究(研究代表者 齊藤万比古)「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」厚生労働省、2007

https://www.mhlw.go.jp/content/12000000/000807675.pdf

3)斎藤環:改訂版 社会的ひきこもり.PHP文庫.東京:2020年.

4)厚生労働省:ひきこもり支援施策について

https://www.mhlw.go.jp/content/12602000/001099862.pdf

5)厚生労働省委託事業「ひきこもり状態にある方の社会参加に係る事例の調査・研究事業」報告書 ひきこもり状態にある方やその家族に対する支援のヒント集 (2021年)

https://www.mhlw.go.jp/content/12000000/000774122.pdf

6)厚生労働省:ひきこもり支援ポータルサイト「ひきこもりVOICE STATION

https://hikikomori-voice-station.mhlw.go.jp/

7)思春期のひきこもりをもたらす精神科疾患の実態把握と精神医学的治療・援助システムの構築に関する研究(2019年) 

https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/16973

8)石川良子、林恭子、斎藤環:「ひきこもり」の30年を振り返る.東京:岩波ブックレット.2023年.
(名張市立病院小児科 小林 穂高)

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