メディアおよびゲーム依存(ゲーム障害、インターネット・ゲーム障害)

1.概要・定義

 世界保健機関(WHO)作成の国際疾病分類ICD-11には「ゲーム障害(Gaming disorder)」が掲載されています。また、インターネット依存(以下ネット依存)については、代表的なものとして質問紙検査であるInternet Addiction Test(IAT:インターネット依存度テスト)がWeb上で一般にも利用出来るようになっています。

ゲーム障害診断のポイントとなる行動は、次の3つです。

 a. ゲームのコントロールの障害(頻度・熱中度・時間が度を超している)

 b. 日常生活や他の関心事よりもゲームを優先させる

 c. 対人関係や仕事・学業・健康上の問題が起きていても、ゲームを継続させる

 診断基準では、この3つのゲームに関する行動パターンが反復的に12ヶ月以上続き、日常生活に苦痛や障害を引き起こしている場合に診断される、と定義されています。

 ゲーム、インターネット以外にもメディアはありますが、現実的に問題になるのはインターネットとオンラインのコンピュータゲームです。例えばテレビ放送がネットやオンラインゲームほど依存性が高くなる事は筆者の経験上ありません。それは番組が限られるため自分の好きな内容だけを延々と選択し続けられない・またテレビそのものが常に個人で独占出来る訳ではないなどの物理的条件が関係していると考えます。

 

2.症状

 上記の3つの行動そのものが「症状」と言えますが、現実的な問題は、そうしたゲームやネットの使用を続けようとする本人と、止めさせようとする保護者の対立です。そのために過度の反抗・反社会的行動などが起こる事も少なくありません。具体的には、

・親への暴力、家庭内での物の破壊

・自由にゲームやネットを使わせてくれない家庭環境からの家出

・ゲーム・ネットで使うための金銭の不適切使用=家庭の金銭を盗んだり、親のクレジットカードを勝手に使ったり

などがあります。

 また、ゲーム・ネットの使用を優先するために睡眠や食事を削って健康を保てなくなる場合もありますし、深夜までゲーム・ネットを使用して朝起きられず不登校となる場合もあります。

 

3.診断法

 上記のように診断基準や質問紙検査はありますが、その基準に当てはまるかどうかを重要視するのはあまり意味がありません。ゲームやネットへの過度の没頭のために、現実の生活で支障があるなら、それはゲーム・ネット依存と考えて対応する方がいいと考えます。

 

4.治療・対策

 ゲーム・ネット依存は決して「病院で治すもの」ではありません。

 ゲーム・ネット依存で受診する場合、「ゲーム・ネットを止めさせたい親 vs止めたくない本人」という対立状況で受診する場合が大半です。本人が医師・医療機関を「親の味方」だと感じると、本人と医師の関係が保てなくなりますし、受診も拒否してしまいます。そのため医師は中立的・客観的な姿勢で関わろうとします。

 一部ゲーム・ネット依存の入院治療に取り組んでいる医療機関もあるようですが、全国的にもごくわずかですし、決して入院させたら治る訳ではなく、何より家庭の理解と協力が必要なのです。

 ゲーム・ネットの管理は家庭で対応する事で、病院では直接管理出来ません。そのため保護者が正しい知識を身につける事も重要です。ゲーム・ネット依存についての本などを利用して、正しい知識を得る事は重要です。

 治療は「ゲーム・ネットを減らす・止める」ではなく「ゲーム・ネット以外の時間を増やす」のが原則です。これも医療での対応は難しく、学校などの協力も必要になる場合もあります。「不登校で1日中ゲーム三昧」という子も少なくないため、放課後デイ・適応指導教室・フリースクール・習い事の教室など、学校以外の社会資源を利用する事も勧めます。

 

5.合併症・併存症

 自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)など、いわゆる「発達障害」の特徴を持つ子は、ゲーム・ネット依存になりやすい事が知られています。しかも、ゲーム・ネット依存の問題で受診するまで、そうした発達の特徴に気づかれていない子も多いです。そのため、ゲーム・ネット依存の心配で受診した小児科年齢の子については、背景にASDやADHDが隠れていないかどうかを確認し、そうした特徴が分かれば、その特徴に合った対応をする事も大事になります。ASDの興奮かんしゃく、ADHDの多動衝動性・不注意に対してはお薬で一定の効果が期待出来ます。

 また睡眠の問題も医療機関では関わりやすい問題の一つです。特にゲーム・ネットのために睡眠の問題を持つ子は多く、これを「健康の問題」として扱う事は本人に取っても比較的受けいれやすいと考えます。特に「メラトニン製剤」というお薬は、発達障害を持つ子の睡眠の問題に比較的安全に使える薬です。一方、「ゲームのために寝ようとしない」場合は、お薬を使っても意味がありません。

 

(秋田県立医療療育センター小児科 渡部 泰弘)

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