注意欠如多動症

1. 概要

 注意欠如多動症は一般にADHD(Attention-Deficit Hyperactivity Disorder)と呼ばれています。ADHDとは年齢相当の知的能力を持ちながらも、注意力、集中力、衝動のコントロール力の部分が実際の年齢に比べて2,3才程度遅れている発達障害の一種です。したがって、全般的な知能の遅れ(概ねIQ:70以下)がある場合は不注意や多動の症状があってもADHDでという診断名はつきません。

頻度は小中学生の3~7%程度で、年齢とともに軽減していきますが、成人まで症状が残る人も2~4%います。男子に多く、女子では不注意症状が主なために気付かれにくい。

遺伝については、ADHDやASD(自閉症スペクトラム症)が同一家系に多いこと、一卵性双生児での一致率が高いことから遺伝性があると考えられます。ただし、候補遺伝子は100以上あり、これらの組み合わせにより同一家系でも症状の有無や強さが変わると推定されます。

小児期にADHD症状に起因する失敗を両親や教師などから厳しく叱責されてばかりいると、「どんなにがんばっても、僕はどうせダメなんだ」と自分に自信がなく、自分を大切にできない性格が定着してしまいます(ADHDによる二次障害)。また、親側も叱り続ける状態に疲弊し、罪悪感を抱き、子どもに愛情が持てなくなるなどの弊害が引き起こされます。小学時代のADHD段階で適切な対応が行われず、叱責、罰則、ネグレクトなどが繰り返される結果、反抗挑発症、素行症(非行)、さらには、反社会性人格障害に発展する可能性があります。それらを予防するため、就学後の早期に症状に気付き、正しく診断を受け、周囲の大人たちがADHDを理解することが大切です。ADHD症状が親の育て方の失敗ではなく、生まれつきの疾患によるものであること、叱って改善できるものでは無いこと、年齢とともに軽減していくことがわかるだけで、親側に余裕ができます。さらに、家族と専門家、教師が連携し、情報交換を継続的に行います。そして、現状の不注意や多動については適切な環境調整や行動療法、薬物療法などの選択肢があります。ADHDの診療を行っている小児科医、児童精神科医、ADHD適正流通管理システム登録医などにご相談ください。

 

2. 症状・原因

 ADHD症状は小学校1,2年生で気付かれることが多い。

不注意

集中できない、うっかりミスが多い、気が散りやすい、忘れ物が多い

順序だてて取り組むことが苦手、

多動-衝動性

じっと座っていられない、授業中に立ち歩く、順番が待てない、

しゃべり過ぎる、衝動的に行動する、人の邪魔をする

 原因は脳の前頭葉においてドーパミンやノルアドレナリンが不足しているためで、周囲の叱責や本人の努力だけでは症状を改善することはできません。

 

  ADHDの原因仮説

実行機能障害

目的達成のために、準備し、手順を組み立て、実行し、途中で他の誘惑を我慢することが困難となる。

報酬系機能障害

目的達成により得られるご褒美(報酬)や達成感(賞賛)を励みに、頑張りを続けられる時間が短い。頑張った後で得られる報酬を待つことが出来ず、衝動的 に目的から外れてしまう。 

 

 

3. 診断法

 アメリカ精神医学会が作成したDSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル 第5版)に準じ、以下のA~Eのすべてを満たす場合に診断します。

不注意症状6つ以上、または、多動・衝動性症状6つ以上を認める

B

症状は12歳より以前から存在する

C

家庭、学校、友人同士など、複数の状況で症状がある

D

学業の低下や親子関係・友人関係の悪化をもたらしている

E

ADHD以外の精神疾患(児童虐待の影響など)ではない

診断は診療に習熟した医師による詳しい問診と診察、家族や担任教師からの情報、知能検査、脳波検査などによって行われます。

鑑別診断として一部の神経疾患や虐待、不安定な子育て環境などが子どもにADHDと非常に似た症状を引き起こす場合があります。そのため、成育歴や家庭の状況を含めた医学的評価は非常に重要です。   

 

4. 治療・対策

 ADHDを持つお子さんは自分ではどうにもできない症状のため、家庭・学校生活で様々な困難をきたします。まず、親や教師などが疾患の知識を集めることから始めます。

1)非薬物療法:治療は薬物を使わないものから始めます。 

①心理教育:家族や教師が子どものADHD症状について観察し、症状がどのような時に増えるかを理解します。環境調整として、教室での机の位置を教卓の前にする、課題を行うときには気が散る刺激(誘惑)を遠ざける、課題を小分けにして1課題が10~15分で終わる様に区切る、など の工夫が有効です。

②ペアレントトレーニング:

子どもの症状に対応する親側のトレーニングです。問題行動に対して過剰な叱責は行わず見て見ぬふり(治療的無視)をします。問題行動を自分でやめた時、即座に褒めるたりご褒美を与えたりすることにより、長期的にみて問題行動は減少していきます。

③行動療法(トークン・エコノミー) 

 「望ましい行動」がとれた時、貯まるとご褒美が得られるシールなどを与えることで、ご褒美の獲得まで継続的に「望ましい行動」を注意喚起することができます

 (例:買い物の度にポイントが貯まり、最終的に景品などと交換できる)

 

2)薬物療法: 

 症状が強いため叱ることをやめられず親や教師との関係が悪化する場合や、本人が自信喪失、自暴自棄など(自己肯定感が悪化する)場合、初めて薬物療法を追加します。抗ADHD薬にはそれぞれに作用と副作用があり、お子さんによって選択、量を調整します。 

 一般の小児科医にも処方可能な薬剤:

(非中枢性刺激薬であり、実行機能障害を改善する)

アトモキセチン

(ストラテラ)

抗うつ剤(選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害剤)として開発の過程で、ノルアドレナリンの作用を高め。

グアンファシン

(インチュニブ)

降圧剤として開発されたが、後にノルアドレナリンの作用を調整することで実行機能を高めることが判った。

副作用として、血圧低下、頭痛などがあり、起立性調節障害の悪化に中止する。

 ADHD適正流通管理システムの登録医師だけが処方可能な薬剤:

(中枢性刺激薬であり、実行機能障害、報酬系機能障害を改善する) 

メチルフェニデート徐放錠

(コンサータ)

ドパミン・ノルアドレナリンの作用を増強することで、実行機能と報酬系機能の両方を改善する。副作用として、食欲低下、体重減少、不眠などがありえる。

リスデキサンフェタミン

(ビバンセ)

5. 合併症・併存症

  ASD (自閉スペクトラム症)やLD(限局性学習障害)などの生まれつきの特性を併せ持つことが多い。また、 学業不振や対人関係の不和で悩み、気分が落ち込んだり(うつ状態)、不安感をコントロールできなくなったり(不安障害)などを発症することもあります。

 

(聖路加国際病院小児科 深井 善光)

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