コミュニケーション症群
1. 概要
コミュニケーションとは、発信者と受け手との間での情報のやりとりであり、その意図の有無に関わらず、他者の行動・考え・態度に影響を及ぼすものです。言語的なものだけではなく、非言語的なものも含まれます。文化的・言語的な状況を考慮した上で、コミュニケーションにおける困難さがみられる疾患(群)をコミュニケーション症と総称し、現在は神経発達症(発達障害)に位置づけられています。言語症(特異的言語発達障害)・語音症((機能性)構音障害・音韻障害)・小児期発症流暢症((発達性)吃音)・社会的(語用論的)コミュニケーション症の4つが代表疾患とされており、以下、その4つについて述べます。
言語症(特異的言語発達障害)
話す、書くなどの言語の習得や使用が困難な状態を示すものです。語彙力や文章を組み立てる力、わかりやすく話す力の弱さがみられ、言語の表出や受容に問題が生じます。症状のはじまりは乳幼児期とされており、聴覚などの感覚や運動機能の問題、原因となる身体疾患などがないことが診断の条件となります。また、全般的な知的発達の遅れがある場合も該当としません。本症は家族内に同様の症状のある方が多いとされています。
語音症((機能性)構音障害・音韻障害)
言葉を正しく発音することが困難な状態を示すものです。乳幼児期に言葉を最初に話し始める頃には、必要な音が抜けたり、置き換わったり、ゆがんだりすることもあるのですが、通常は4~5歳頃にはその間違いが修正され解決していきます。従って、語音症とされるのは、幼児期以降であり、6歳では数%くらい、学童期で1%くらいと考えられています。言葉を正しく発音できないため、進んで話そうとする意欲が育まれにくく、集団への参加や学習に制限がかかることがあります。就学前や小学校低学年のうちに言語聴覚士等による治療的介入を受けた場合の予後は良いとされていますが、言語症が併存する場合の予後は良くはなく、限局性学習症を伴うこともあります。脳性麻痺や口唇口蓋裂、難聴、頭部外傷などによる症状ではないことが診断の条件となります。
小児期発症流暢症((発達性)吃音)
言葉を流暢に発することが困難な状態を示すものです。
・音の繰り返し「連発」。(例:「こ、こ、こ、こども」)
・音の引き延ばし「伸発」。(例:「こーーーども」)
・音の出にくさ「難発」。(例:「・・・・・・こども」)
以上の3つが中核症状としてあげられており、言いにくい発音の言葉をさけて言い換えたりすることも生じます。随伴する発語以外の症状として、会話の際の過剰な身体の緊張(会話には本来必要のない身体運動など)がみられます。ストレスや不安が症状を悪化させる可能性があり、心身症の側面をもっているといえます。言葉を流暢に発する力が、実年齢に対して明らかに低く、幼児期から学童期では、集団への参加や学習に制限がかかることがあります。青年期以降では、会話に対する心理的負担を日常的に感じ、コミュニケーションを回避しがちになることもあります。症状の始まりは2~7歳とされており、就学前では特別な介入なしに改善していく場合が多い(75%くらい)とされています。男児においてより多く、身体的な問題や、脳腫瘍・頭部外傷などによる症状ではないことが診断の条件となります。
社会的(語用論的)コミュニケーション症
社会的に必要とされる効果的なコミュニケーションが困難な状態を示すものです。周囲の人との挨拶や情報共有といった社会的コミュニケ―ションを適切な形でとることが難しい、状況や相手に合わせてコミュニケーションを変えることが難しい、会話の社会的な共通ルールに従うことが難しい、ユーモアや隠喩・慣用句の理解や、状況に応じた言葉の解釈が難しい、という4つが症状としてあげられます。症状の始まりは幼少期とされていますが、能力の限界を超えた社会的コミュニケーションが要求される年齢になるまで気づかれない(問題にならない)場合もあると考えられます。社会的コミュニケーションに困難さがみられる場合、まず、自閉スペクトラム症であるかどうかが考慮されますが、自閉スペクトラム症では、行動・興味・活動の限定された/反復的な様式が存在しますが、本症ではそれらが存在しないことで区別されています。また、本症の症状は、社交不安症の症状とも重複しますが、本症では、生来、一貫して効果的なコミュニケーションが困難ですが、社交不安症では、社会的コミュニケーションの技能は適切に習得・発達しますが、対人的相互関係に対する不安・恐怖・苦痛のためにそれがうまく活用できない状態であるとされており、症状の始まる時期も異なり、区別されています。神経疾患や言語的な能力の低さによる症状ではないことが診断の条件となります。
(姫路市総合福祉通園センター 北山 真次先生)