機能性消化管疾患

1.疾患の概要 

 機能性消化管疾患(以下FGIDs)は、国際的な機能性消化管病変の基準であるRomeⅣ分類において、腹痛を中心とする消化器症状が①診断の6ヵ月以上前から存在②最近の3ヵ月はそれぞれの診断基準を満たし、症状の誘因となる器質的な病変がないと定義されています。2006年のRomeⅢ基準以降、FGIDsは03歳までの新生児・乳幼児期と418歳の小児・思春期と、初めて発達年齢の観点から分類されました。FGIDsの内、機能性腹痛障害(Functional Abdominal Pain Syndrome以下FAPD)は心身相関の観点でも重要な病態です。

2.疫学

 小児におけるFGIDsは、下位項目の定義が時代ごとに変遷し、適切に診断・分類をされていない時期もあり、情報は多くありません。反復性腹痛にて三次医療機関である小児消化器外来に紹介され、器質的疾患を否定された518歳の171名の患者に対する前向き試験において、Rome-Ⅰの成人のIBS基準に68%が合致するとの報告があります。また腹痛により三次医療機関に紹介され、器質的疾患を否定された107名の小児の主症状をRome-Ⅱ基準で検討した結果、IBS45%、これ以外のFD、機能性腹痛症(Functional Abdominal Pain以下FAP)、腹部片頭痛の総計で23%の患者が該当することが報告されています。

 

3.病態

 FGIDsにおける病態は大きく消化管運動機能異常と腹腔神経知覚過敏の2つに分けられます(図1)。代表的な疾患として、機能性ディスペプシア(FD)と過敏性腸症候群(IBS)が挙げられます。FDは、運動機能異常として胃穹窿部において胃内容物を貯留し、その後胃体部へと送り出す適応性弛緩の減弱、さらに前庭部から幽門輪を経て十二指腸へ送り込む胃排出能の低下がみられ、心窩部膨満感や早期飽満感の大きな要因となります。更に知覚過敏により少量の内容物や酸によっても心窩部痛や心窩部灼熱感を引き起こします。一方IBSでは大腸の運動機能異常による下痢、便秘と、知覚過敏による腹痛が主です。腹部片頭痛、FAPNOSについては、まだ病態の理解が不明な点も多いが、頻度は少ないとされています。

 

4.症状と診断

 Rome-Ⅳ基準でのIBSは、腹痛が1)排便に関連する2)発症時に排便頻度が変化する3)発症時に便形状(外観)が変化する、以上の三項目のうち一つ以上を満たすものと定義されます(図2)。サブタイプとして、成人同様、下痢型、便秘型、混合型、分類不能型の4つに分類されます1。(図2)

 FDは近年小児においても注目されつつあり、上腹部の持続性反復性の疼痛や不快感が、排便と無関係に起こり得る病態です。分類は成人と同様に食後の胃部膨満感および早期飽満感(少量の食事で胃部膨満を訴える)を呈するPost-prandial Distress Syndrome(PDS)、食事前後に関係なく、心窩部痛および心窩部灼熱感を訴えるEpigastric Pain Syndrome(EPS)に分類されます(図3)。
 腹部片頭痛は、腹痛に加え頭痛や消化器症状などを併存する病態(であり、周期性嘔吐症候群と一部重複します。FAP-NOSは腹痛において食事‣月経などの生理学的変化や、前述の他の同じカテゴリーの病変基準を満たさない病態を指します。

 

5.治療と対策

 FGIDsは、急性期では非常に症状の訴えが強く、かつ片頭痛や緊張型頭痛、心因性発熱、起立性調節障害など他の機能的疾患の合併も多くみられ、登校困難など学習や対人交流にも影響し、家庭や課外活動でも著しく患者のADLを低下させるため、医療上重要な病態です。
 一般小児外来では、急性発症と反復性慢性の腹痛、あるいは発症年齢を考慮した上、器質的疾患の鑑別診断のため、診察や治療を行います。腹痛の原因が急性腸炎や炎症性腸疾患であり、炎症所見が改善していても、腹痛や便通異常などが持続する時は、感染後 IBS(PI-IBS)や、FDなど他疾患の合併を考えます。
 患児の日常生活に支障があり、身体症状だけでなく精神的に不安定な場合、心理的評価や介入を考慮します。
 正常な排便習慣の回復を目指し、患者情報を整理します。まず重要なのは排便状況の確認です。便の回数や性状、増悪及び軽快因子などを丁寧に聴取し、可能な限り、便性状を記した毎日排便記録はあることが望ましいです。
 最も重要なのは、腹部の診察を行い、ガスや便の存在部位を把握することで、。必要に応じ腹部X線撮影も考慮します。
 また病態の説明と食事指導・生活習慣の改善を図ります。便秘が主訴であれば、高繊維食の摂取とともに、わずかな便意があってもこれを無視せずに最優先します。さらに排便姿勢に留意し、必要であれば前屈や足をきちんと接地して排便するなどの指導も行います。下痢の場合は、症状を悪化させる香辛料やカフェイン含有物の摂取を控えます。さらにグルテンフリー食やガスの発生しやすい多糖類を回避した低FODMAP食なども効果が期待できます。睡眠不足は症状の増悪因子であり、早寝早起きや、起床時の軽い運動、登園登校前に時間的余裕をもって排便する習慣を指導します。
 薬物療法は、比較的成人領域でもエビデンスが少なく多様性がああります。FDでは、腸管運動機能改善薬や六君子湯、酸分泌抑制剤が第一選択ですが、抗コリン剤等の鎮痙剤、安中散などの漢方方剤も経験的に用いられます。便秘病変には、便性状を変化させる酸化マグネシウム等の浸透圧性下剤を第一に用います。一方でセンノシド、ピコスルファートなどの刺激用下剤は、内服時の腹部症状の増悪や、長期内服による薬剤耐性の出現も考慮し、頓用に留めるべきです。下痢病変ではポリカルボフィルカルシウムが推奨されますが、他にも腸内細菌叢の変化を狙い整腸剤も用いられます。症状によりSNRIなど向精神薬導入も検討の対象となります。

 

6.予後

 小児青年期におけるFGIDsは、現時点で明らかでありません。成人においては、IBSについては数件の報告、FDでは、プロトンポンプ阻害剤などの薬物投与後やピロリ菌除菌後の経過を追った報告があるのみです。

(奥見診療所 奥見 裕邦)

 

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