発達性協調運動症
1. 概要・定義
身体のバランスがうまく取れず、自分の体なのにうまく扱えない、よく転ぶ、タイミングよく動けないことや、細かい力加減ができず、左右の四肢(手指)や見え方と動作の大きさを調整(協調)することが苦手で、書字や工作・制作作業、はさみ、楽器などの道具使用に困難がみられる状態です。一般に「運動音痴」「不器用」と称されていますが、年齢相当の日常生活や学習・就労の妨げになると、診断・対応してゆきます。
DSM-5では神経発達症群の運動症群/運動障害群に分類されています。症状は発達段階早期から始まっているものであり、知的障害や視力障害、神経・筋疾患によるものは除外されます。
2. 症状
明らかな遅れではないけれど、乳児期から運動発達がゆっくりで、ハイハイをしない、歩くのが遅かったというエピソードを聞くことがあります。そのうち、よく転ぶ、足が遅い、姿勢が悪い、といった運動の苦手さや身体バランスの悪さが目立つようになりますが、症状が顕著になるのは身辺自立が進む幼児期後期から学習が始まる小学校入学後で、ボタンやひも結びなどの日常動作がうまくできず時間がかかる、物を落とす・こぼす、自転車に乗れない、はさみが使えない、絵や字が下手、体育や運動遊びが苦手、動きがぎこちないといったことが気にされます。なぜ上手く出来ないのかがわからず、周囲から「ちゃんとして」「ふざけないで」「よく見て、丁寧に」と注意・叱責されることが多くなり、自信ややる気をなくしていることも多いです。
3. 治療・対応
運動が苦手、不器用というだけで医療機関を受診されることはほぼありません。出来ていたことが急に出来なくなったという場合は他の疾患を疑う必要があります。発達の遅れや学習困難として相談される中にDCD特性がみられたり、不登校になったりなどの二次障害で受診して初めて気づかれることもあります。対応可能な医療・療育機関では作業療法士等による評価やリハビリが開始され、身体バランスやどのような協調運動(左右の協調、目と手の協調など)に困難があるのか見極めながら訓練をすることができますが、多くは病院よりも家庭や保育園・幼稚園や学校といった日常での対応が主となります。子ども達の運動・作業がうまくいかない理由を考え、周囲の理解をえながら療育や学校の通級指導なども検討されます。日常的に丁寧に動作の確認をして・コツをつかめるような練習(どの方向にどのくらい力を入れるのか、適度な力の抜き方、タイミングの取り方など)、視覚認知訓練(コグニショントレーニング、ビジョントレーニング)を行うのも有効な手段となります。
4. 合併症・併存症
他の神経発達症(自閉症スペクトラム症(Autism spectrum disorder : ASD)・注意欠如多動症(Attention-defect/hyperactivity disorder : ADHD)、学習障害(Learning Disabilities : LD))との併存が多くみられます。ASDの場合には先にASDに気づかれ対応される中で感覚過敏などと一緒に気づかれ治療・支援の対象となりますが、ADHDやLDは学習不振や学校不適応を呈してからDCDに気づかれることが多いです。困難の背景にDCDがあることを支援者が知っておくことで支援の方法が増え、子ども達の自信の回復につながると考えます。そのほか、近視や乱視といった視力の問題や、外(内)反扁平足などの合併も見過ごされやすいものとして挙げられます。
(西部島根医療福祉センター 脳神経小児科 大野 貴子先生)