神経性過食症
1.概要
神経性過食症(bulimia nervosa: BN)と神経性やせ症(anorexia nervosa: AN)は摂食症の代表的な病型です。AN,BNともに精神病理の中核となるのは、「体重体型,そのコントロールの可否と自己評価の過剰な密着」であり、体重体型への囚われが生活のすべてとなります。AN、BNともにやせ願望や体重増加恐怖、ボディイメージの障害を認めますが、BNはむちゃ食いと、代償行動(自己誘発性嘔吐、下剤・利尿剤乱用)の食行動異常と正常域の体重で定義づけられます。やせの体重を示している場合はANのむちゃ食い・排出型となります。13~18歳の生涯有病率は女子1.3%、男子0.5%という報告がありますが、体重が正常域のため受診につながらないことも多いとされています。
2.症状・診断
BNは、思春期以前の発症は珍しく、通常は思春期以降に食事制限の過程で始まることが多いです。 BNのむちゃ食い(過食)は、短時間(通常2時間以内)に詰め込むように一気に食べ、食べることのコントロールができない感覚を伴います。なんらかのストレスによる不快気分の解消のためにむちゃ食いを行い、体重を増やさないために代償行動につながります。代償行動は自己誘発嘔吐が一番多く、指やホースなどの道具を用いることもあります。また、市販の下剤乱用も少なくありません。彼らは自分の食行動を恥ずかしく思っていることが多く、自分をコントロールできない感覚は自尊心の低下や落ち込みにつながります。その不快気分はさらなるむちゃ食い、代償行動のサーキットを形成します。 3カ月間に平均週に1回以上のむちゃ食い・代償行動と体重・体型への強いとらわれを認めれば診断となり,治療が必要と考えられています。
3.合併症・併存症
身体的合併症:嘔吐が続くと唾液腺が腫れたり、歯が胃酸で溶けたり、虫歯になったりすることもあります。むちゃ食いによる胃の拡張や穿孔、嘔吐による逆流性食道炎、嘔吐や下剤乱用では、カリウムが失われて致死的な不整脈が出ることもあるので、体重が正常域であっても血液検査や心電図検査は必要です。精神的併存症:BNでは精神疾患の併存が多く、抑うつ症群、不安症群(社交不安症)、パーソナリティ症群の頻度が高いといわれています。自殺の危険性はAN同様に高く、BNの約1/4~1/3が自殺念慮や自殺未遂の経験があるとされています。
5.治療
児童思春期BNのEBMに基づいた治療としては、家族療法、認知行動療法、BNに焦点づけたガイデッドセルフヘルプがあります。むちゃ食い・代償行動については慢性的に経過することが多いため、食行動異常を「なくす」というよりは規則正しい食事や生活習慣を身に付け、本人のコントロール感を取り戻すことを目指します。そのため外来では、生活パターンを記録してむちゃ食いや代償行動のきっかけに気づき(セルフモニタリング)、対処行動(コントロール)を一緒に考えています。本邦では摂食症に適応のある薬物治療はありませんが、併存する抑うつ症状、不安症状にSSRIを用いることはあります。その際も小児年齢に適応がないことには注意が必要です。
6.経過
BNでは、少なくとも数年間症状が持続します。経過は慢性的であったりむちゃ食いが再発しては寛解に入るなど断続的であったりもしますが、1年以上寛解が続くことと長期予後の良さは関係しているといわれています。
(獨協医科大学埼玉医療センター子どものこころ診療センター 大谷 良子)