慢性・悪性疾患(ネフローゼ症候群、血液疾患、糖尿病、小児がんなど)

概要・定義

ここでの子どもの慢性・悪性疾患とは、徐々に発症し、または急性期から移行し、長期にわたって、生命や健康を脅かし、医療負担が生じ、子どもと家族の生活の質(QOL)を低下させる疾患全般を指します。具体的には、国が定めた小児慢性特定疾病の16 疾患群、788 疾病(令和3年 11 月時点)が含まれます。これらの慢性疾患を抱えた子どもと家族のQOLには疾病特性は少なく、診断名に関わらず子どもの症状の性質と心理社会的因子に注目しなければならないことがわかりました(平成14年厚労省成育委託研究事業)。

 

症状

病気の診断、症状、治療体験は、子どもと家族の心理社会的ストレスとなり、新たな心身の問題が生じたり、以前からあった潜在的な心理社会的問題が顕在化したりします。例えば心理面では、ショック、否認、悲しみ、怒り、罪悪感など、喪失体験と同様の悲嘆反応や、しがみつき、引きこもり、泣く、夜尿など子ども特有の退行を認めることがあり、また、うつ病や心的外傷後ストレス障害などの精神症状が生じることもあります。新たに出現した身体症状は、心身症症状である場合や、変換症を含む身体症状症である場合があります。登校や引きこもりなど社会適応の問題、養育者や家族の心身の健康の問題、経済苦、家庭内暴力など養育環境の問題も看過できません。さらにこれらの問題は、原疾患の症状や治療に二次的な影響を及ぼします。

 

診断(評価)

心理社会的因子を含めた包括的な評価が必要になります。病態理解には、子どもと養育者、その環境にある問題と、それらの相互作用を含めた統合モデル(生物‐心理‐社会モデル,Bio-Psycho-Social Model)が役立ちます。さらに小児期では、発達の視点や、リスク因子だけでなくレジリエンスを含めて考えることが重要です。大半の症例で複数の問題が認められますが、主治医は優先度の高い問題を明確にする必要があります。さらにその問題の形成過程に関与する要因を、素因、誘発因子、持続(維持)因子、保護因子(レジリエンス・強み)で整理して定式化する(フォーミュレーション)ことで、治療方針が決定しやすくなります。多くの場合、誘発因子が原疾患の発症(再発や再燃)となります。持続因子は症状を遷延、増悪させており、治療と対策の標的となることが多いでしょう。

 

治療・対策

  • 原疾患の症状や医療処置による苦痛は、十分にコントロールされていることが望まれます。
  • 心理的な反応へは、乳幼児、学童、思春期で表現型が異なることを考慮して対応します。
  • 養育者や家族への負担が大きい場合は、家族を対象としたケアや医療が求められます。
  • 生活苦や虐待、不適切養育など養育環境の問題が子どもの病気を契機に顕在化し、行政機関や児童相談所への相談が開始される場合があります。
  • 子どもや家族が主体的に治療に取り組むことができ、自己効力感や自己肯定感を高められるよう手助けします。
  • 連携が考えられる職種には、精神科など他科医師、看護師、心理師、保育士、チャイルドライフスペシャリスト、ホスピタルプレイスペシャリスト、ソーシャルワーカー、保健師などがあります。地域や施設の資源に合わせて、日頃からのネットワークづくりは大切です。

(国立病院機構長崎病院 錦井 友美)

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