身体症状症に関連するもの

1.  概要
身体症状があるにもかかわらず原因と考えられる身体異常がない状態を以前は「身体表現性障害」とよんでいました。しかし検査で異常が見つからないのか、本当に異常がないのか、その判断は検査技術、精度に左右され、非常に困難です。そこで新しい枠組みとして、病気、検査異常の有無にかかわらず、身体症状にとらわれ過剰に意識する状態を「身体症状症」と呼ぶようになりました。病気に違いないと不安になる、実際の病状から予測される以上の症状がある、心理的な要因で病状が悪化する、症状のあるふりをする、なども関連疾患として含まれます。つまり、症状は身体症状なのですが、心理的な要素が原因として関わる状態のことです。

 

 2.  症状
様々な症状がみられます。身体疾患との鑑別点として、「心身症を疑わせる所見」の6項目が参考になります。

  • 症状の程度や場所が移動しやすい
  • 症状が多彩である
  • 訴えのわりに重症感がない
  • 理学的/検査所見と症状が合わない
  • 曜日や時間によって症状が変動する
  • 学校を休むと症状が軽減する

 

3.  診断法
まず症状の起こるきっかけ、性状、経過、随伴症状、対処法、日常生活での支障度、などを本人だけでなく周囲の人からも詳しく聞き取り、症状から考えられる身体疾患の検査を行います。まず緊急性のある重篤な疾患がないことを確認し、症状を説明できる異常があるか、予測される症状よりも訴えがはるかに重篤ではないか、などを検討しながら総合的に判断します。
身体の検査をどこまで行うか判断が難しいのですが、検査がもたらす苦痛と検査から得られる情報の有用性を比較しながら選択します。ものごとの捉え方や心理状態に問題がないか、発達検査、心理検査を行うこともあります。

 

4.  治療・対策
明確なメカニズムは不明ですが、心理的ストレスや葛藤を無意識に抑え込んでしまい、それが身体症状として現れると考えられています。したがって、症状の原因が心理的要因であることを認め、それをコントロールすることが大切です。
   もともと心配性である、ストレスを感じやすい資質がある(緊張しやすい、融通がきかない、相談が苦手など)、ストレスの多い環境(いじめ、学業についていくのが大変、周囲からの過干渉など)、ストレスを解消しにくい環境(理解されない、頼れる人がいない、生活の制約が多い)など、ストレスを溜め込む原因は人それぞれなので、対処法を一概に言うことはできません。もしストレスの原因に心当たりがあれば、それを取り除くこと、対処しやすくする方法を考えます。同時に、症状をなくすことにこだわらず、症状があってもできることを行い、症状とつきあっていくことを考えます。これらのことを行うのは本人の努力だけでは難しく、環境調整、周囲の理解と協力が必要です。症状を説明できる原因が見つからなくても症状が辛いことに変わりはありません。症状のあるふりをしているとしても、そうするのはなにか辛いことがあるからです。周囲の人たちが「大げさ」「嘘をついている」と疑っていると、本人は辛さを理解されない不安でストレスに向き合うことなどできるはずがありません。周囲が症状を「辛さ」として認めることがとても重要です。周囲から理解され、安心できる環境に身を置くことが傷ついた心身への労わりとなり、症状をコントロールできる自信や肯定的に評価されることがストレスへの抵抗力となります。
ストレスを受けやすい原因として、鬱、強迫性障害などの精神科疾患がある場合、自閉症スペクトラム症、学習障害など発達、適応に問題がある場合、いじめや虐待など社会的問題がある場合は、それぞれに対する対応も必要です。

 

(清恵会病院小児科 松島礼子)

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